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近畿大学 岩前 篤教授 コラム

人の歴史や文化と切り離せず、日々の生活の舞台となる住まい。なかでも近年特に注目を集めつつある高断熱住宅は、
これからの人の暮らしや社会、環境をどのように変えるのか――。

住宅の断熱性・気密性について長年研究を続けている近畿大学建築学部の学部長・岩前篤教授をお迎えし、
健康や快適性、省エネルギー、住まいの寿命との関係などさまざまな視点からお話しいただきます。

第1回 冬の寒さと健康

平成24年6月に厚生労働省が発表したもので、日本人の「平均寿命」と「健康寿命」を比べた興味深いデータがあります。健康寿命とは介護を受けたり寝たきりにならず、自立して健康な日常生活を送ることができる期間のこと。

グラフから分かるように、発表によれば日本人の健康寿命は平成22年で男性70.42歳、女性73.62歳とされています。平均寿命が男性79.64歳、女性86.39歳であることを考えれば、男性は約9年間、女性は約13年間、サポートがなければ日常生活にも不自由する状態で暮らさなければならないということです。

地域別の健康寿命と平均寿命

これはとてもショッキングなデータといえるのではないでしょうか。男性の場合、65歳で定年退職した後、元気に旅行などの趣味を楽しめる時間は5年ほどしか残されていないことになります。日本人の平均寿命の長さは世界からも注目を集めていますが、肝心なのは今後この健康寿命をいかに延ばしていくかでしょう。

健康寿命を延ばすために気をつけなければならないポイント、それは「冬の寒さ」なのです。死亡率は一年でもっとも冬場に高くなります。この季節間の変動は明らかで、循環器系、呼吸器系、神経系、血管系などさまざまな死因で同じ傾向が見られます。

季節変化が明らかな死亡原因

実は冬が最も危険という傾向は昔からあったわけでなく、日本がまだ発展途上にあった明治時代半ばあたりまでは、死亡率がもっとも高いのは夏の暑い時期でした。その後、徐々に夏に対して冬に亡くなる人の割合が高まってきて、高度成長期には完全に逆転しています。

これは日本に限ったことではなく、ほぼすべての先進国で似たような現象が見られます。発展途上の社会で夏の死亡リスクが高い原因は、新鮮な食事が調達しにくいからであり、食あたりで命を落とす人が多いからではないかと言われています。

冬の死亡率が高いのは病気だけではなく事故も同じで、11月から2月頃にかけて亡くなる人が増加します。なかでも注目すべきは、溺死、転倒、窒息などの家庭内事故で亡くなる人の割合が、夏場に比べてはっきりと高くなるということです。家庭内事故の死亡者数の総計は、交通事故による年間死亡者数約5,000人の2.6倍である年間13,000人。つまり、冬の家庭内事故は交通事故よりはるかにリスクが高いのです。

このように、家庭内事故に寒さが影響していることは明らかです。現代社会において健康とは「冬をいかに暖かく過ごすか」にかかっているということです。実際、カナダやスウェーデンなどの寒さが格別厳しい国ほど季節ごとの死亡者数の差はそれほど大きくありません。これは長い歴史を経て、冬を乗り越えるための備えがすでにしっかりとできているからだと考えられます。

暖かく過ごすためには、単に厚着をすればよいというわけではありません。確かに着る枚数を増やして体温が逃げないようにすることで改善できる症状もありますが、冷気を吸い込み肺が冷えることによる免疫力低下は、厚着ではカバーできないのです。肺の免疫機能が下がれば当然ながら風邪などを引きやすくなります。この対策としては居住空間の温度を上げることしかありません。

冬場、暖房の効いた部屋と冷えたままの廊下やバス、トイレとの温度差は15℃ほどにものぼります。また、深夜や早朝などには、布団の中の温度と室温との差が20℃近くにもなり、布団から抜け出るのがつらくなります。急激な温度差は人の体にとって大きな負担となり、心臓発作や脳卒中を引き起こす「ヒートショック」の危険にさらされます。夜中に目が覚めてトイレなどに行こうとして亡くなってしまうケースは後を絶ちません。こうしたヒートショックを防ぐためにも室内の暖かさを保つことが大切なのです。

では、冬場に一定以上の室温を保つためにはどうすればよいのでしょうか。24時間すべての部屋で暖房をつけっぱなしにするというのは現実的ではなく、ここで重要になってくるのが住まいの断熱性です。以上のことを踏まえて、次回は高断熱住宅がいかに健康に良い影響を与えるかをお話ししたいと思います。

近畿大学 岩前 篤教授

近畿大学 建築学部学部長 建築環境システム研究室 教授・博士

岩前 篤(いわまえ あつし)教授

昭和36年和歌山県生まれ。昭和60年神戸大学院工学研究科を修了後、大手ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。平成7年、神戸大学にて博士号を授与。平成15年春に同社を退社したのち、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任。平成21年に同教授、平成23年に新設された建築学部の学部長に就任し、現在に至る。

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