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近畿大学 岩前 篤教授 コラム

人の歴史や文化と切り離せず、日々の生活の舞台となる住まい。なかでも近年特に注目を集めつつある高断熱住宅は、
これからの人の暮らしや社会、環境をどのように変えるのか――。

住宅の断熱性・気密性について長年研究を続けている近畿大学建築学部の学部長・岩前篤教授をお迎えし、
健康や快適性、省エネルギー、住まいの寿命との関係などさまざまな視点からお話しいただきます。

第3回 断熱が誤解されるわけ

日本では、さまざまな誤解から断熱を好ましくないものとして考え、否定的な意見を持つ人が少なくありません。コストの制約さえなければできるだけ断熱したいと考える欧米とは対象的です。それではどのような理由で日本では断熱が否定されてきたのかを、今回は具体的にお話しします。

まず、意外なほど多いのが「断熱は体に良くない」とする意見です。冬の寒さが体を鍛えるのであって、断熱して寒さから逃げれば免疫力が低下して体がなまってしまうなど。しかしこの説には全く根拠がなく、むしろ冬に住まいの暖かさを保つことが健康改善につながることは、前回詳しく述べた通りです。

誤解を招く原因を挙げるとすれば、高断熱高気密住宅に住む子どもが薄着のまま外に遊びに行って風邪を引いてしまうケースなどです。これは単に着衣習慣が変わったからであって「体が弱る」などの理由ではありません。

また、「断熱など昔はなかったから必要ない」という声を聞くこともあります。これは非常にナンセンスな意見であり、それをいうならガラスや畳も昔はありませんでした。畳が普及したのは江戸時代末期であり、ガラスなどは明治時代に入ってからです。「昔はなかったものだから畳もガラスも必要ない」という人はおらず、断熱のみを同じ理由で否定するのはおかしな話です。

住宅断熱不要説への反論

そもそも日本の伝統的住居に対する考え方は見直した方がよいでしょう。現存するフランスの貴族の館を見て、昔のフランス人はみんなここに住んでいたと考える人はいません。しかし、神社や仏閣などの古い日本の建築物を見て、私たちの先祖はこういう紙と木の家に住んでいたと思うのはなぜでしょうか。それらは古来有力者たちが力の象徴として築いた建築物であって、住居ではありません。

兵庫県に「箱木千年屋」という現存する最古の民家があります。室町時代からの残る土壁できた住まいであり、開口部は最小限に留められ、熱を逃がさないように配慮した明らかな冬型住宅として作られています。これは豪農の住まいであり、庶民の家とは少し違いますが、人が実際に暮らした「住居」を考える上では良い参考になると思います。

兼好法師が書いた『徒然草』の中に「家のつくりようは夏をもって旨とすべし(家は夏を中心に考えて風通しのよいようにつくりなさい)」という言葉が残されていて、引き合いに出されることも少なくありません。ただ、『徒然草』には現在の常識には合わないような節も多く残っており、この「夏をもって旨とすべし」のみを真に受けるのはいかがなものかと思います。内容ではなく語感の良さから、美しい日本語として後世まで伝えられたと考えるほうが常識的でしょう。

「高断熱高気密住宅は息苦しそう」という声もしばしば聞かれます。この息苦しいというイメージはほとんどが音に起因するものです。断熱性が高い住まいでは遮音性も高く、外の音が聞こえにくくなります。道路を走る車の音や鳥のさえずりなど良い音も悪い音も含めて室内に入ってこなくなり、家の中がしんとした静けさに包まれます。基本的に住まいが静かなのは歓迎すべきことですが、敏感な人では経験したことのない静けさに独特の感覚を覚えることがあります。それを「息苦しさ」と感じてしまうのでしょう。

また一方で、「高断熱高気密住宅は風通しが悪そう」というイメージを持つ人もいます。しかし風通しの良し悪しは住宅設計の問題であり、高断熱・高気密であるかどうかとは関係ありません。高断熱高気密住宅であっても、春や秋の気候が良い時期には窓を開けて外の風を積極的に取り入れることはできますし、そうすることをおすすめします。窓の計画を適切に行うことで、風通しの良さと高断熱は当然ながら両立できます。

このように、高断熱高気密住宅をめぐる誤解はひとつずつ解消することができます。これらの偏見がなくなったとき、断熱が人の暮らしに果してくれる役割の大きさにあらためて気付くことができるでしょう。この連載コラムの後半となる次回以降では、今後求められている住宅のあり方や社会、地球環境との関係から、高断熱高気密住宅を新しい目で見つめていきます。次回は特に、「住宅の長寿命化」という点に着目します。

近畿大学 岩前 篤教授

近畿大学 建築学部学部長 建築環境システム研究室 教授・博士

岩前 篤(いわまえ あつし)教授

昭和36年和歌山県生まれ。昭和60年神戸大学院工学研究科を修了後、大手ハウスメーカーに入社し、住宅の断熱・気密・防露に関する研究開発に携わる。平成7年、神戸大学にて博士号を授与。平成15年春に同社を退社したのち、近畿大学理工学部建築学科に助教授として就任。平成21年に同教授、平成23年に新設された建築学部の学部長に就任し、現在に至る。

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