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住宅技術評論家 南 雄三氏 コラム

住宅の高断熱・高気密化は今日どのような状況を迎えているのか、「省エネ住宅」とはそもそも何なのか、日本の風土・気候に合った高断熱高気密住宅とはどうあるべきか――。
日本における住宅の省エネ化を長年リードしてきた南氏ならではの視点でお話しいただきます。

第4回 断熱と日射の切り離せない関係

私の著書を読んだ方などから直接依頼を受け、住まいの基本プランを作成することがあります。そうしたとき、私がいつも施主と交わす約束が「晴れた日の昼に陽が入る部屋は20℃以上、陽が入らない部屋でも15℃以上。夜中暖房を切っても朝15℃以下にならない家をつくります」というものです。そのうえで、必要な断熱性能や窓の大きさは基本的には任せてもらっています。

15℃以下にならない家は、次世代省エネ基準の断熱性能をクリアすればよいかというと、一概にそうは言い切れません。地域の気候や個々の家の立地などにより、次世代省エネ基準で十分な場合もあるし、そうでない場合もあります。

経験上、東京であれば非暖房室を15℃以下にしないためのQ値は1.9が適当だと思います。それに対して、次世代省エネ基準で東京の属するⅣ地域で求められるのはQ値2.7です。Q値は低いほど断熱性能が高いことを示しますから、次世代省エネ基準よりも一段高いレベルが適していると考えるわけです。

どの程度の断熱性能が望ましいかについては、平成21年に発足した「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」(HEAT20)でも調査がされています。東京で実施された室内温度環境の調査では、暖房が必要な期間の全時刻で全室の最低作用温度が15℃以上となるのはQ値1.9で約80%、Q値2.7で約65%となることを明らかにされています。

さらにHEAT20は、調査に基づくQ値1.9のメリットとして次の二つを挙げています。一つ目は、暖房負荷の軽減効果が高いこと。Q値1.9の住まいであれば、全館連続暖房(家全体で24時間連続して暖房)しても、その暖房負荷は平成4年に定められた新省エネ基準の住まいで部分間欠暖房(人がいる部屋で人がいる時間帯だけ暖房)する負荷と同等となります。

二つ目は、住まいにおいて人間が肌で感じとる体感温度についてです。体感温度は壁や床などの表面温度が低ければ低下するため、低断熱の住まいでは暖房設定温度と体感温度の差が大きくなります。しかし、Q値1.9以下の住宅ではその差を2.3℃以下までに抑えられます。

ただし、ここで忘れてならないのは、Q値には日射の利用が含まれていないということです。日本は北海道から沖縄まで地域ごとに寒さ暑さが大きく異なるだけでなく、どのくらい住まいが太陽の光を取り込めるかという日射量についても著しい差があります。これを無視して断熱設計はできません。

例えば、次世代省エネ基準において東京と新潟は同じIV地域に分類されていますが、新潟の日射量は東京の半分しかありません。日射量が多ければ太陽の熱が住まいを温めるぶん暖房の使用は減り、日射量が少なければ逆のことがいえます。このため、新潟の暖房負荷は東京の2倍というシミュレーションがあります(自立循環型住宅への設計ガイドライン)。

壁面の素材や窓の断熱性も関係してきます。東京のような日射量が多い場所では、壁の蓄熱性が高ければ窓を大きくすることで暖房負荷が小さくなりますが、新潟では窓が小さい方が暖房負荷は小さくなります。しかし、新潟でも窓の断熱性を上げれば窓を大きくした方が暖房負荷は小さくなります。このように、断熱性能と日射量は設計の上で複雑にからみ合い、切り離して考えることができません。

断熱性能を高めれば当然コストアップにはなりますが、Q値1.9は技術的に極めて難しいというわけではなく、施工コストも断熱性向上による暖冷房費削減効果と照らし合わせれば許容しやすいレベルです。Q値2.7を1.9に高めるには、壁・天井・床などを十分に断熱した上で、窓の性能向上に力点を置くのが効果的です。日射熱を取り入れるために窓面積を広くすることを前提にすれば、日射がないときの熱損失をどう防ぐかが肝心となるからです。ガラスを変更するなど窓単体での断熱性アップより、断熱戸や断熱ブラインドなど付属部材との組み合わせを重視するのがよいでしょう。

次回は、日射熱を最大源に利用した住まい、パッシブデザインについてお話します。

住宅技術評論家 南 雄三氏

住宅技術評論家

南 雄三(みなみ ゆうぞう)

昭和24年東京生まれ。昭和46年年明治大学経営学部卒業。断熱メーカー在籍中に工務店業界と深く関わり、住宅産業に精通した経験を生かして住宅産業全般のジャーナリストとしても活躍。近年は、自立循環型住宅やCASBEE戸建など公的なエコ活動の普及に注力し、全国各地で講演・執筆活動をしている。『スラスラわかる断熱・気密のすべて』(日本実業出版)、『高断熱・高気密バイブル』『変わる「省エネ」変わる「住まい」』(以上、建築技術)他等著書多数。

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