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東京大学大学院 前 真之准教授 コラム

本連載で今回お迎えするのは、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授で工学博士、一級建築士の前真之氏です。エコハウスを中心とした全国の住宅の調査・研究に取り組んできた前氏に、住まいとエネルギーとの関係や断熱・気密をめぐる建築事情、真のエコハウスづくりに大切なことなど、多岐にわたってお話を伺います。

第4回 失敗しないエコハウスの基本とは?

家づくりが決まったとき、もし住宅デザインに強いこだわりがないのであれば、省エネの観点から手堅いのは断熱・気密をメインにして開口部を小さめにする守りの手法です。いわゆる「普通」の窓を持ち「普通」の間仕切りを入れた、一般的なデザインの住宅であれば、省エネ対策等級で定められた等級4はそれほど不十分なレベルではありません。

しかし、「せっかく家を建てるのだから、憧れの吹き抜けや明るい光が差し込む大窓が欲しい」などとなれば、話は違ってきます。吹き抜けの冷暖房効率の悪さや窓からの熱損失を考慮した上で、それを補えるような断熱性・気密性の向上が不可欠です。理想の住宅デザインを追い求めるのであれば、それに見合った住宅性能が必要ということです。

省エネ対策等級をめぐっては、一般に2つの誤解があると思います。1つ目は「等級4が最高水準である」ということ、2つ目は「等級4さえクリアしていれば何をしても大丈夫」ということです。

間欠・部分暖房

1つ目については、確かに現状ではよりハイレベルな等級5が定められていない以上、基準上では等級4が最高です。しかし私は、この設定自体に問題があると思います。等級2、3、4と3段階あれば、等級2ではイマイチ、等級3が普通で、等級4なら優れていると誤解しがちです。コース料理などで松・竹・梅と3ランクあれば、真ん中の竹コースを選ぶ人が多いのと同じ理屈で、「断熱は“普通”に等級3でいいかな」と考える人が多数います。

しかし、等級4は実際にはさほど高いレベルではないのです。それより高い等級がないため、便宜上最高とされているに過ぎません。他の先進国の省エネ基準に比べると寒冷地ではそれなりですが、特に温暖な地域ではかなり見劣りします。等級4が優れているのではなく、等級1~3が低すぎるのです。

2つ目の誤解は本連載の第1回でもお話しした通り、「壁に◯◯ミリ断熱を入れればよい」「このガラスとサッシを選んでおけばよい」という仕様規定に従って等級4をクリアした住宅が、「何でもあり」な住宅デザインを行っていることに顕著に表われています。仕様規定は便利ですが、免罪符ではないのです。

私は大開口や吹き抜けそのものがただちに「増エネ」だと言っているわけではありません。壁や開口部の断熱を高め気密性を確保すれば、極寒地であっても開放的な住まいをつくることは可能です。

例えば、私が調査した住宅の中にも、厳冬期の最低気温がマイナス40℃という北海道のある地域で、大きな窓から雪の景観が楽しめるようにした吹き抜けのあるエコハウスがありました。壁・屋根・床などに最高レベルの断熱・気密を行い、極めて高性能なガラスを使用することで、外部にほとんど熱を逃がさず、エアコン1台で十分快適に過ごせる環境をつくり出していました。

サーモグラフィー4

ただし、このような例では相応のコストがかかることを考慮に入れておくべきです。前述のエコハウスでは、窓ガラスの購入だけで1,000万円以上を費やすという徹底ぶりでした。かといって、ここで断熱・気密のコストを惜しめば、後から莫大な光熱費がかかることになります。

住まいづくりで何を優先するかは、デザイン面の希望だけでなくこうしたコストを含めた総合的な観点から考えるべきです。等級4をただクリアすればよいなどと、国が決めた仕様規定に漫然と従えばいいのではありません。

もうひとつ忘れるべきではないのが、断熱・気密による省エネは住まいの基本であり、太陽光発電などの創エネにも優先するということです。創エネによってエネルギー消費を差し引きゼロにする「ゼロエネルギー住宅」は、最近よく耳にするキーワードです。しかし、「省エネはもう古い。これからは創エネでゼロエネ」などと考えるのは非常に危険です。

ゼロエネ自体が目的化されると、「太陽光発電を乗せておけばすべて解決」となり、家は太陽光パネルを乗せるための台に成り下がってしまいます。家は人が住む場所であり、エネルギー創出のために家があるわけではありません。

後付けできる太陽光パネルに比べ、断熱・気密性能は一度建ててしまうと後で改善するのは大変なことです。いざ住んでみると耐えられないほど寒く、暖房が思うように効かないことに気付いても、施工の手間やコストを考えれば早々に断熱・気密リフォームとはいかないものでしょう。

限りある家づくりの予算を太陽光パネルや蓄電池、HEMS(ホームエネルギー管理システム)などで使い切ってしまい、肝心の住宅がスカスカになってしまうというのは何としても避けたいものです。設備などの「機能」に目が流れ、基本的な住まいの質が無視されやすいのは日本の家づくりの欠点だといえます。

solarfamily

こうした家づくりの基本を踏まえた上で、次回は断熱性・気密性を追求した先にある「暖房のいらない家」について詳しく取り上げます。

東京大学大学院 前 真之准教授

東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授・博士

前 真之(まえ まさゆき)

昭和50年広島県生まれ。平成10年東京大学工学部建築学科卒業。平成15年東京大学大学院 博士課程修了、平成16年建築研究所など を経て、同年10月、29歳で東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。平成20年より現職。建築環境を専門 にし、住宅の エネルギーに関する幅広い研究に携わる。暖房や給湯にエネルギーを使わない無暖房・無給湯住宅の開発にも注力している。

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