(2014年4月23日更新)
快適健康住宅づくりのコツ
人と住まいの健康を守る正しい換気とは?
監修:西方 里見(西方設計代表・一級建築士)
断熱材選びや断熱工法と合わせて検討したい開口部や住宅設備について考える連載記事です。
家族の健康と住まいを良好に保つために大切なポイントをご紹介していきます。
シックハウスの原因を取り除くために
換気の目的は、汚れた室内の空気や湿気を排出して、屋外のきれいな空気を取り入れることです。ホルムアルデヒドなどの人体に有害な化学物質の濃度が極めて高い住宅が普及し、1990年代には「シックハウス症候群」がとして大きな社会問題となったことは比較的記憶に新しいでしょう。一般的な住宅でもわずかながらに建材や家具から化学物質が発散されており、これらが室内に蓄積しないよう、絶えず新鮮な空気に入れ替えることは欠かせません。
加えて、日常生活により大量に発生している水蒸気にも注意すべきです。4人家族の家庭で生じる水蒸気は、人体からの発散や炊事などを合わせて一日当たり合計9.4リットにものぼります。これをそのまま住宅内に溜めてしまうと高すぎる湿度がカビやダニの発生を促すことに。空気中を漂うカビの胞子やダニの糞、死骸はシックハウスの大きな要因となっています。
また、冬場に石油ストーブやガスストーブを用いた場合には、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が室内に放出されます。たばこを吸う場合も、煙に含まれた発がん物質が問題となります。シックハウスはこれらを広く含めた健康被害を指しています。
こうしたトラブルを防ぐために適切な換気は極めて重要なものです。「住まいが高気密化してきたから換気が必要」など誤解されることがありますが、むしろ気密性を高めることで効率的な換気ができ、人と住まいの健康を守ることにつながります。
24時間換気システムは住まいの最低条件
平成15年の建築基準法の改正により、新しく家を建てる際には24時間換気システムが義務付けられています。ただ、ここで義務付けられているのは、人口密度とは関係なく建物の全体に対して0.5回/h(1時間あたり0.5回の換気:建物の半分の空気を入れ替える)というもの。必要な換気量は常時活動する人数や、家の中で発散されている化学物質量によるところが大きく、この基準だけで判断するのは難しいのが現実です。
人数を基準にする場合は、一人あたり25~30㎡/h程度の換気量が目安といえます。ただし、室内で喫煙する場合や化学物質の残留が多い場合はこの換気量では不十分であり、窓を開けるなどの対処が求められます。春から秋にかけては窓の開け閉めを行う機会が多いものの、冬は閉めっぱなしにしがちのため、大勢の人が集まる時などは特に意識して換気するようにします。
24時間換気というと電気代を気にする人が多いですが、実際には換気にかかる電力使用量は多くはないのです。例えば東京電力圏内で、トータルで30Wとなる換気システムを使用した場合、30/1000kw×24時間×30日×25.19円(円/kW)で約544円となります。ワット数はどのような換気システムを採用するかでも異なりますが、低気密な住まいで空気が漏れていくのを換気代わりとし、失われる熱や冷気を補うために冷暖房エネルギーを余分に使うことを考えればよほど低コストといえます。
なお、最近問題となっているPM2.5や花粉などの発生量が多く、窓からの換気がためらわれるときにも24時間換気システムは有効です。近年では給気口に取り付けるフィルターの高性能化が進んでおり、ミクロン単位の物質を取り除けるものも増えています。適切なフィルターを採用し、定期的な掃除・交換を行うことで、健康に欠かせない換気を行いつつ、屋外からの有害物質をシャットアウトできます。
給気・排気の方法で分かれる3タイプの機械換気
住宅の換気はいくつかの仕組みに分かれます。まず大きく「自然換気」と「機械換気」に分けることができます。自然換気はドアや窓を開けて室内の空気を入れ替える方法で、気圧差や温度差、風の力などを利用して行います。機械換気は換気扇で強制的に空気を入れ替える方法で、24時間換気システムの義務化により設置が必須となりました。
機械換気は、給気と排気の方法により主に3タイプに分けられます。給気も排気も換気扇で行うのが「第1種換気」、換気扇で給気し、自然排気するのが「第2種換気」、自然給気し換気扇で排気するのが「第3種換気」です。このうち第2種換気は、病院の手術室や精密機器工場などでホコリなどが入りにくくするために用いられ、一般の住宅ではほとんど使われていません。
第1種・第3種換気を比べると、第3種換気のメリットはイニシャル・ランニングコストともに安いことです。第1種換気では給気・排気の両方に機械を必要とすることから導入に数十万円かかるのに対し、第3種換気では数万円程度。月々の電気代も、第3種換気が平均100~600円程度なのに対し、第1種換気では400~1,000円程度が相場といえます。このコストメリットから、現在は第3種換気がもっとも多く用いられています。
一方、第3種換気の自然給気は、気密性の低い住宅ほど給気口から新鮮な空気が十分に取り入れられないというデメリットがあります。その点、第1種換気は排気・給気ともに機械を用いるため制御しやすく、高気密住宅ほどその効果を実感できます。