(2014年5月28日更新)
快適健康住宅づくりのコツ
冷暖房の選び方・使い方
監修:西方 里見(西方設計代表・一級建築士)
断熱材選びや断熱工法と合わせて検討したい開口部や住宅設備について考える連載記事です。
家族の健康と住まいを良好に保つために大切なポイントをご紹介していきます。
床下エアコンは省エネルギーな全館暖房の決め手
冬に、床面・壁面・天井面が室温より0.5~1℃前後高いと、心地よい暖かさが感じられます。特に人がじかに接する床面は重要で、足元からのじんわりとした暖かさを実現するのが「床下暖房」です。床下暖房では、住まいの高断熱・高気密化に伴って開発された新しい暖房方法で、導入コスト・ランニングコストともに比較的安価なのが特長です。
床下空間を暖房機器で暖めて床面を室温より0.5~1℃高い温度に保ち、床面にガラリ(吹き出し口)を設けて自然対流で室内を暖めます。基礎コンクリートから熱が外部に放出されないように基礎断熱を行う必要があります。
床下を温める暖房器具は、かつてはFF式※の灯油ストーブが多く用いられましたが、昨今では性能向上が著しいエアコンの方が費用対効果に優れています。通常のように、室内上部ではなく床下に設置することで、肌に感じる不快な空気の流れや温度ムラといったエアコンの弱点を補うことができます。
温暖地にあるQ値※1.3程度の高断熱高気密住宅で、延べ床面積が40坪以下であれば、ほとんどの場合14畳用エアコン1台を床下に設置することで全館暖房できます。設置場所は、LDKなど滞在時間が長く、確実に暖めたい部屋の床下が基本です。スペースにゆとりがあれば設置場の上に室内干し用の小部屋を設けると、洗濯物がよく乾きます。
その他の暖房方法のメリット・デメリット
足元から温める暖房方法で、床下暖房より多く普及しているのが床暖房です。大きく違うのが、床暖房では床表面の温度が25~30℃程度とかなり高めになること。座ったり寝そべったりしたときに体が高温の床面に触れている状態になるので、低温やけどに注意します。また、窓下に溜まる冷気を解消しにくい欠点があり、より高い健康性・快適性を求めるなら床下暖房の方が優れています。
パネルヒーティングは、灯油やガスのボイラーを使い、リビングや個室、廊下などに設置したパネルヒーターに温水を運ぶ暖房方法です。熱源を分散でき、マイルドな暖かさで快適な環境がつくれます。反面、イニシャルコストが高いのが難点で、高断熱高気密住宅であってもパネルヒーター3~4台とボイラーの設置で80万円程度かかります。住まいの断熱性・気密性能が低ければ、この額はさらに倍以上に跳ね上がります。
木質バイオマスを熱源とする薪ストーブやペレットストーブは、再生可能エネルギーを使用するためエコな暖房方法といえます。ただし、薪ストーブは薪がただで入手できるような特殊な環境でなければ、燃料代と労力が相当にかかります。一方、ペレットストーブは使い勝手は灯油ストーブに近いものの、灯油よりは高コスト。また、薪のように木を燃やしているという情感は得られにくいのが残念な点です。
住まいの高断熱・高気密化を前提に「採暖」から「暖房」へ
電気ヒーターやホットカーペット、こたつなどにより直接的に体を温めて暖をとる方法を「採暖」と呼びます。採暖に部屋全体を暖めるパワーはなく、暖房とは根本的に違うという点で注意が必要です。補助的に使うのであればよいのですが、低断熱の住まいで省エネや光熱費の削減を目的に、採暖のみで冬を乗り切ろうとするのは避けるべきでしょう。
特に、電気ヒーターなどで体の片面だけを温める採暖方法は、健康面から見て非常にマイナスです。寒い部屋で電気ストーブの前に座ったときなど、体の前面と背面の体温差が大きくなり、血流が温められた面の熱を体内に循環させようとして、心臓や血管に負担をかけます。日本には囲炉裏や火鉢で寒さをしのいできた歴史があり、その名残からさまざまな採暖方法が使われ続けてきましたが、近年では健康性を考えて採暖から暖房への移行が進められています。
なお、採暖・暖房いずれの方法をとるにしても、冬の暖かさを確保する大前提となるのが住宅そのものの断熱・気密性能です。十分に断熱・気密された住まいでは、どのような機器でもその性能が最大化に発揮されます。場合によっては機器自体が不要になり、エネルギーを使わず快適で健康な究極のエコ住宅を実現します。