菅原大輔さんが語る「機能とデザインのバランス」
省エネ性や断熱性といった「機能」と、暮らす喜びを感じられるような「デザイン」はいずれも家づくりの核であり、
マイホームを考える一人ひとりが両者の最適なバランスを探し求めることが重要です。
本コーナーでは、機能とデザインを合わせたトータルな視点から住まいを提案する建築家、菅原大輔氏を迎え、お話を伺いました。
2. 日本らしさが活きる「環境と応答する住まい」
周辺環境との関係性を重視するのは、日本古来の住宅の良さです。夏の暑い時期は庇で強い日射しを遮り、春や秋の気候の良い時期には開口部を開けて風を楽しむなど、暮らしの知恵が住まいの中に長く受け継がれてきました。夏に生い茂って木陰をつくり、冬には葉を落として陽光を通す落葉樹が、常に民家の傍に置かれてきたことなどもその一例と考えられるでしょう。日本の伝統的住宅は、いわば「環境と応答する住まい」です。
私自身、環境とつながり合う住まいをいかにつくるかは、建築に携わるようになって以来ずっと意識してきたことです。例えば、どのような部屋でも必ず最低2カ所の窓を設けるというのも、そうしたポリシーに基づいています。複数の開口部により風の通り道をつくることで心地よい外気を呼び込み、さらには風景さえも周辺とつながるような設計を心がけています。
ただ一方で、さまざまな良さを持った伝統的住宅が多くの場合は夏を基本に考えて建てられ、冬の寒さへの対応が後回しにされてきたのも事実です。構造的に熱が逃げやすく、外部からの冷気を防げない家での生活は、実際には非常に厳しいものです。建築家としての私の経験上も、マイホームづくりでは「夏に暑くない家」よりは「冬に寒くない家」を求める施主が圧倒的に多く、昔ながらの低断熱住宅での暮らしの厳しさに気付いている方は多いようです。
断熱・気密の技術が発達した今は、夏の涼しさのために冬の暖かさを犠牲にしなくても、四季を通して快適性を保つことができます。外の環境を利用できる季節は開口部を開け放って外気を取り入れ、暑さ・寒さが厳しい時期にはしっかりと閉じて室内の温熱環境を守るというように、住み手の心地よさを実現するための選択肢を増やしてくれたのが、断熱材や高気密サッシだと思います。
平成22年に設計を手がけた個人住宅「石切の家」(大阪)は、周辺環境とのつながりを大切にしながら、一年を通して快適に過ごせる機能性を備えた住まいの実例として挙げられます。地形や風の流れを考慮した上で建物の形態を決め、家中で最も高い位置にある階段室にはトップライト(天窓)を設けました。ここを開放し、階下の窓も開ければ、気圧差により常に家の中にゆるやかな風を起こすことができます。
冬用に床暖房、夏用にエアコンを設置していますが、実際にこの家で暮らす施主によれば、真冬・真夏であってもそれらを使うのはごく短い時間に限られるそうです。朝、外出前に少し冷暖房を使用すれば、夕方帰宅したときには住まいに残る涼しさや暖かさを感じられます。これは、高い断熱・気密性能があってこそ実現できるものです。
空調はかたくなに拒否するようなものではありませんが、季節を問わずに常に頼りっぱなしになるのは好ましいとはいえません。重要なのは、工学的な工夫で自然環境を住まいに呼び込み、必要に応じて適切に冷暖房を取り入れながら、その時々にふさわしい方法で快適性を求めていくこと。省エネという観点からも、それが最適な形であると考えています。