菅原大輔さんが語る「機能とデザインのバランス」
省エネ性や断熱性といった「機能」と、暮らす喜びを感じられるような「デザイン」はいずれも家づくりの核であり、
マイホームを考える一人ひとりが両者の最適なバランスを探し求めることが重要です。
本コーナーでは、機能とデザインを合わせたトータルな視点から住まいを提案する建築家、菅原大輔氏を迎え、お話を伺いました。
3. 東北・沖縄・関東 ―― それぞれの住まいの快適
東日本大震災の直後、特に被害の大きかった地域の一つ、岩手県陸前高田市で仮設住宅団地のプロジェクトに携わりました。直接的には各住居の配置とインフラ計画を行いましたが、これは私にとってかつてないほど「地域に根ざした断熱性能の大切さ」を感じさせられる案件でした。
個々の住宅設計を行ったのは地元の工務店で、冬の寒さが厳しいその土地の家づくりを知り尽くした人たちです。大工さん一人ひとりが、断熱材やサッシはどうすべきか、配管を結露させないためにはどのような施工が必要かなど、十分な経験を積んでいます。被災した人々に住む場所を一刻も早く提供しなければならないという状況の中、わずか2日間で組み立てられるユニット住宅でありながら、断熱性能は驚くほど高いのです。
震災地域の仮設住宅の建設には、全国のさまざまな地域から駆けつけた建設業者が関わることとなりました。東北の気候に慣れない業者が建てた住宅の中には、適正な温熱環境を守れず、結露が激しかったり、水道管が凍ったりといったトラブルを抱えるものが少なくありません。寒さの厳しい時期を迎え、後から応急処置的に外張断熱を施すような例も目にしてきました。日本には一つの気候しかないと想定して建てる家と、地域に合わせた性能を追求した家では、当然ながら住み心地に明らかな差がつきます。
東北のような寒冷地と対照的なのが沖縄の住宅です。多くの家は長い庇を持ち、敷地面積の半分近くが屋根だけの半屋外という家も珍しくありません。関東地域などでは、庇は建ぺい率の制約を受けずにすむ1m以下に抑えようとしますが、沖縄では全く違った発想がされています。余分にコストをかけてでも「庇の下」という半屋外空間をたっぷりと確保し、そこに椅子を置いてくつろいだり、植物を育てたり、洗濯物を干したりなどして活用するのです。
この屋外のような屋内のような「中間領域」が、沖縄の暮らしに楽しみや豊かさ、ゆとりをもたらしています。そして亜熱帯化が進む日本において、こうした空間を重視する意識は北上していくのではと予想できます。
関東で「中間領域」を活かした住まいの一例として、私が建築設計を行った「切通しの家」(千葉)が挙げられます。山々と畑に臨む北面に大開口を設けたいという施主の要望を受け、広々としたテラスとLDKをひと続きの空間としました。この掃き出し窓にはカーテンすらつけず、開ければそのまま目の前の田園風景と住まいが一体化します。このときLDKは、外でもあり中でもある不思議な空間になります。
ただし、千葉という土地を考えれば、沖縄とは異なり当然ながら冬の寒さへの対応も欠かせません。家族が体を休める各個室は、半屋外として使用できるLDKとはドア一枚で簡単かつ完全に切り分けることができ、厚い断熱材を充填して、開口部も限定的に留めています。そのため、家全体で見れば「LDKがある北面のみオープン、その他はクローズ」にすることも可能で、LDKの開閉によって四季のはっきりしている関東でも、年間を通して快適性を確保できます。
強調したいのは、住まいに必要な性能はそれが置かれる環境を大前提に考えることが不可欠という点です。地域性を無視した建築は、いくらデザイン性が優れていたとしても住む人に快適性や暮らす喜びを提供することができません。