住宅技術評論家 南 雄三氏 コラム
今回から6回にわたってお話しいただく方は、住宅技術評論家であり、木造住宅の断熱・気密化技術のアドバイザーであり、自ら省エネ住宅づくりにも携わる南雄三氏です。
住宅の高断熱・高気密化は今日どのような状況を迎えているのか、「省エネ住宅」とはそもそも何なのか、日本の風土・気候に合った高断熱高気密住宅とはどうあるべきか――。
日本における住宅の省エネ化を長年リードしてきた南氏ならではの視点でお話しいただきます。
第1回 今あらためて「省エネ住宅」を考える
住宅業界は今、省エネ施策が「出そろった」局面を迎えています。平成25年1月に改正省エネ基準が告示され、平成25年10月に施行、平成32年までの適合義務化が目指されています。それに先駆け、平成24年5月には「住宅のネット・ゼロ・エネルギー化に向けた補助金制度」(ゼロ・エネ住宅の補助金制度)が施行され、同年12月には「認定低炭素住宅」の税制優遇もスタートしました。
ひとつずつ見ていくと、まずベースとなるのが今回14年ぶりに改正された省エネ基準です。一次エネルギー消費量を指標として、建物全体の省エネルギー性能を評価する「一次エネルギー基準」と建物外皮の断熱性を捉えた「外皮性能」の二本立てとなりました。
一次エネルギー消費量とは、石油・天然ガスなどの自然界にあるエネルギーを、発電効率や送電ロスを含めてどれだけ使ったかを示すものです。一次エネルギー基準では、暖冷房、換気、照明、給湯、家電・調理という生活総合エネルギーを一次エネルギーで評価し、太陽光発電による創エネ分をそこから差し引きます。
一方、省エネの基本となる断熱については、外皮性能として別に基準が設けられました。改正前、「次世代省エネ基準から大幅に引き上げられるのでは」など噂されていた断熱レベルは、蓋を開けてみると次世代省エネ基準を維持したままとなりました。指標がこれまでのQ値(熱損失係数)からUA値(外皮平均熱還流率)に変更されたものの、実質的な断熱レベルはほとんどそのまま受け継いでいます。
認定低炭素住宅の税制優遇は、「都市の低炭素化の促進に関する法律」に基づき、一定の条件を満たした市街地の新築住宅を対象に、住宅ローン減税控除額の引き上げや登録免許税の引き下げなどを行うものです。
ゼロ・エネ住宅の補助金制度は、経済産業省と国土交通省が合同で運営し、それぞれ異なる事業を推進しています。平成24年度の公募では、経済産業省が住宅の建築主・所有者を対象に、国土交通省が中小工務店を対象に、年間の一次エネルギー消費量がゼロになる住宅に補助金を交付しました。
いずれも改正省エネ基準を軸としたもので、国の意図としては改正省エネ基準により住まいの省エネ性能を底上げし、認定低炭素住宅とゼロ・エネ住宅の補助金制度で省エネ住宅をより高いレベルへと誘導しようという狙いがあります。この先にはLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅が最終目標として考えられています。
では、次世代省エネ基準が新築住宅でどのくらい適合されているかというと、数年前までは推定2割という低い水準にとどまっていました。住宅エコポイントという支援策を受けて2011年上半期は5~6割程度に上がりましたが、その終了によりまた落ち込みを見せています。
こうした状況で省エネ基準を適合義務化しようと思えば、皆がクリアしやすいようにレベルを低めに設定するしかありません。実際、今回の改正省エネ基準の断熱レベルは14年前に定めた次世代省エネ基準と同等であり、これが適切かどうかの議論が十分にされていません。その意味で、私は今回の義務化には懐疑的です。
断熱レベルが据え置かれた一方、一次エネルギーが評価基準とされたことにより、太陽光発電などの創エネやスマートハウスには大きな注目が集まります。設備を含めた住まいの一次エネルギー消費量の評価では、断熱性能がそれほど高くなくても、高効率設備や太陽光発電などと合わせてトータルで基準をクリアすることもあり得ます。
業界が慌ただしい中、置き去りにされてしまっているのが「そもそも省エネ住宅とは何か、どうつくるか」という視点です。省エネ基準は最低限の基準であり、これを満たせば十分というわけではなく、また認定低炭素住宅やゼロ・エネ住宅として優遇を受けることが「省エネ上級」を示すわけでもありません。基準や認定をクリアすることが省エネ設計とはならないし、省エネはそんなに単純でつまらないものでもありません。
省エネ基準や断熱性能などのスペックありきではなく、気候や立地、建て主の希望などによってさまざまに変化する条件の中で日本らしい省エネ住宅をどう考えるのかを、本連載で提案していきます。次回はまず、マイホームづくりにおいて何を省エネ住宅のスタート地点とすべきかについてお話します。