住宅技術評論家 南 雄三氏 コラム
住宅の高断熱・高気密化は今日どのような状況を迎えているのか、「省エネ住宅」とはそもそも何なのか、日本の風土・気候に合った高断熱高気密住宅とはどうあるべきか――。
日本における住宅の省エネ化を長年リードしてきた南氏ならではの視点でお話しいただきます。
第6回 あいまい「パッシブ」がおもしろい
あらためてパッシブデザインとは何かを問われると、私は「気まぐれな太陽の光や風と遊ぶあいまいな住まい」と答えます。断熱・気密を充実させながらもパッシブ(passive=受け身)に自然を捉え、自然をそのままに楽しみながら、ときには肌寒さを我慢したり、日が差すのを期待したりする住まい方には「あいまい」という言葉がぴったりと当てはまります。こうしたあいまいな暮らしは、同じ高断熱高気密住宅でも空調で完璧に温度管理する固定された快適感に比べ、もっとリッチな快適感といえるでしょう。
私も夏の夜は基本的に通風だけで眠りますが、全く暑くないかといえばそんなことはなく、暑いが眠れるという言い方が適切です。断熱しているため、昼間の耐え難い熱が室内に残っているわけではありません。それであればエアコンの涼しさではなく、少しぐらいの我慢があっても夜風を感じて眠りたいという思いがあります。
風が家を抜ける感覚を味わえる開放的な間取りも、高断熱高気密住宅だからこそ快適性を損なわずに実現できます。使用する部屋を個別に暖めていた従来の住宅では、部屋を細かく仕切る必要がありましたが、高断熱高気密住宅ではそうした制限がないため自由度が高まり、家を広く使えるのです。
さらに伝統的な日本住宅では、この開放的な空間に襖や障子という建具が活躍します。「開けたり閉めたり」できるこれらの建具はパッシブが似合う日本の住まいを代表するものです。暑い夏や春・秋の時候の良いときは開け放って風を通すことができますし、冬はいっそう「開けたり閉めたり」の機能が活きてきます。昼間日射が得られる間は全て開け放って太陽の熱を十分に取り込み、日が落ちれば外側から少しずつ閉めていく。最後は小さな茶の間に家族みんなが集まってこたつなどで暖を採るイメージです。
伝統的な日本住宅には欠かせない縁側も、重要なパッシブの要素として注目できます。縁側は廊下として家族が行き来したり、ひなたぼっこを楽しんだり、立ち寄った近所の人をもてなしたりなどさまざまな使い方をされる、内とも外ともいえない中間空間です。冬には温室空間となって家の内部まで暖かさを通し、夏は深い軒により太陽を遮り、暑さの緩衝材となります。
建具の「開けたり閉めたり」や縁側などの中間空間を活かしたパッシブデザインは、家の中と外をあいまいにし町へとつなげていくものでもあります。私は平成18年、神奈川県横浜市の店舗併用住宅のフルリフォームに携わりましたが、これは周辺の住民同士がふれ合う「町のへそ」となる場の実現を狙ったものでした。自宅でつくったお弁当を販売するこのお店は、販売が終了した後は店内を開放し、近所のお年寄りや主婦、学校帰りの小学生たちが気軽に立ち寄って交流できる空間となります。
この事例は、高断熱・高気密と日射取得により快適性と省エネ性を確保しながら、家を町へとつなげるパッシブデザインの特長をよく表したものです。パッシブデザインは、個室から家全体へ、家の中から庭へ、庭から町へ、さらには地球へと、どんどん外へと開かれた空間を実現していきます。単純な家のあり方に留まらず、まちづくりや環境との共生という視点を提起するものです。
こうしたパッシブデザインのおもしろさ、奥深さをお伝えし、6回にわたる本連載コラムの結びとしたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。