断熱住宅.com
高断熱高気密で快適な家づくりをサポートする情報サイト
フォントサイズ
フォントサイズ 標準
フォントサイズ 大

Effinergie連合体専門理事 シルヴィ・シャルボニェ氏 コラム

住宅におけるエネルギーの効率利用は、日本だけでなく各国が取り組む世界的な課題です。そこで今回は、ヨーロッパの建築業界で省エネ推進をリードしてきたシルヴィ・シャルボニェ氏をお迎えし、フランスをはじめEU諸国での住宅政策の現状やこれまでの歩み、未来像について話を伺いました。

第3回 省エネ性能の「義務化」はなぜ必要?

――前回まで、フランスやEUでの住宅の省エネ政策について伺ってきました。消費者である国民は、そうした国の取り組みにどのような意識を向け、受け入れてきたのでしょうか?

シャルボニェ氏 フランスを例に挙げると、40年という歳月の中、国民の住まいにおける省エネ意識は非常に高まってきています。最近では企業よりむしろ一般の消費者の方が、エネルギー効率をめぐる情報に敏感になっていると感じるほどです。

どうしてそのような国民的意識の高まりがあるかというと、政府が国民に対して長期にわたる政治的意思をしっかりと示してきたからに他ありません。「法律として導入する」こと以外にそうした意思を明確に伝える方法はないと私は思います。

フランスでは2007年に「環境グルネル」(建物の省エネを含めた気候変動への対策を示した法案)が発表されていますが、そのときにはサルコジ大統領(当時)が直接、この法案の重要性を国民に訴えました。多くの国民が毎日見ている夜のニュース番組に出演して、環境政策の意義を説明した上で環境グルネルの導入を宣言し、理解を求めたのです。国のトップからの強いメッセージを受けることで、国民はそれが自国にとって無視できない課題となっていることを認識しました。

そのほか、新聞や雑誌などメディアへの広告掲載やキャンペーンなど、さまざまな形での広報活動が行われました。さらに一方で、それぞれの地域で建築家や施工業者などが話し合う場を設けて、省エネ推進のために現場では何ができるかという意見を吸い上げてきています。

つまり、トップダウンで国の政策として広報をしながら、地域レベルでもボトムアップで知見を積み上げ、国民への啓発を進めてきたということです。結果として、国民一人ひとりにまで住まいの省エネが必要不可欠なものであるという意識が根付いてきたのです。

――実際に、「自分の住まいがどのくらい省エネか」を一般の国民が知ることはできますか?

シャルボニェ氏 できます。というのも、住宅を売ったり貸したりするときには、建物のエネルギー効率への評価をラベル表示することが義務づけられているのです。BBC(低エネルギー建築物)と呼ばれるパッシブハウスレベルのA評価のものからほとんど無断熱のG評価のものまで7段階あり、このラベルを貼らなければ住宅もそれ以外の建築物も販売・賃貸できません。

また、住宅の省エネ性能は当然ながら冷暖房費に直結してきます。A評価の認証を受けた住宅では、年間の冷暖房費用は300ユーロ(約4万円)程度で済みますが、全く断熱していないG評価の住宅ではその10倍の3,000ユーロ(約40万円)ぐらいかかります。電気料金にフランス国民はとてもシビアであり、年間2,700ユーロ(約36万円)というコスト差は一般家庭では決して見過ごせない金額です。こうしたことが広く知られているから国民の住宅における省エネ意識は一層高まるのです。 。

フランス住宅省エネ対策

――これまで3回にわたりお話を伺ってきました。最後に、今後に向けた日本の省エネ推進についてメッセージをお願いします。

シャルボニェ氏 最初にもお話ししたとおり、長期的な政治的意思を示すには、法律によって制度化していく以外には考えられません。日本では、これまで建築基準法の中に温熱性能についての法規制が盛り込まれてきませんでした。また、省エネ法とそれに基づく省エネ基準は、あくまで努力義務であって法的強制力はありませんでした。この点で強い政治的意思を示すとことはされてこなかったように思います。

一部の人たちだけに有利に働くような限定的制度ではなく、国民全体の意識を高めていくための大きな枠組みづくりが不可欠です。2020年までの省エネ基準適合義務化を目指すなど、新たな動きも生まれている今、国が政策を通じてリードする形でのますますの省エネ推進に期待します。

その一方で、国や制度にばかり任せきりにせず、私たち生活者自身も「住まい」や「省エネ」について改めて考え直すべき時代であることは間違いありません。20世紀型の無制限なエネルギー消費は、結局私たち自身の将来を脅かすことになります。省エネで快適な住まいが増えることは、そこに住む人はもちろん、地域、そして広くは地球にとっても環境負荷が減り、より良い未来を将来の世代の残せることに繋がります。 これからの日本の取り組みに注目するとともに、日本国民の皆さんの、より一層の意識の高まりにも期待しています。

日本の2020年目標

日本での高断熱高気密住宅最新トレンド

近年、日本においても住まいの高断熱・高気密化の意義は少しずつ高まってきています。
ヨーロッパの省エネ住宅を代表するパッシブハウスの考え方は日本にも取り入れられ、2010年には一般社団法人パッシブハウス・ジャパンが誕生しました。
ドイツのパッシブハウス研究所との連携により、国内の住宅性能の強化が目指されています。

また、北海道・東北地方を中心に広まりつつあるのが、NPO法人新住協が提案する高断熱住宅「Q1(キューワン)住宅」です。
「Q1プロジェクト」の名のもと、年間の暖房エネルギーを次世代省エネ基準の半分以下に抑え、Q値(※)をおおむね1.0台とする取り組みが進められています。

住宅に関連する企業においても、世界的な建材メーカーであるサンゴバングループ提唱の「マルチ・コンフォート・ハウス(MCH)」が日本展開されるなどの動きが見られます。
マルチ・コンフォート・ハウス(MCH)は、環境に配慮するだけでなく、あらゆる面で快適な住空間を生み出すため、パッシブハウスレベルの断熱・気密性能に加えて、音響や空気環境などにも高い基準を設けた住宅です。

マルチ・コンフォート・ハウス(MCH)について詳しくは、サンゴバングループのグラスウール断熱材メーカー マグ・イゾベールのサイトでご覧いただけます。

※:住まい全体の断熱性の指標。「熱損失係数(W/ m2k)」と呼ばれ、数値が小さいほど断熱性が高い住宅となる。

シルヴィ・シャルボニェ氏

Effinergie連合体専門理事

シルヴィ・シャルボニェ氏

欧州委員会エネルギー性能技術部会のフランス専門委員(1985~89年)を経て、欧州断熱材製造業者協会技術委員会フランス代表委員(1998年~)、Effinergie連合体(エネルギー性能・生活品質・快適性を同時に保障するための新築・改修計画促進協議会)の専門理事(2005年~)などを兼任。現在はフランスのサンゴバン社で、EUおよびフランス政府の建築部門でのエネルギー効率化に助言する専門家として活躍する。

断熱住宅.com このページのトップへ

Top