パッシブハウス・ジャパン代表理事 森 みわ氏
2013年12月に開催された業界向けセミナー「省エネルギー建物、欧州連合(EU)と日本の対策と展望」から、
省エネ住宅について分かりやすくお話いただいた、(社)パッシブハウス・ジャパンの森みわ氏の講演内容をご紹介します。
【前編】省エネ性能・健康性能を「見える化」する
省エネ性能の「共通のものさし」がない日本
「省エネ住宅」「エコハウス」などの言葉が使われるようになって久しいですが、日本ではこれまで住宅の省エネ性能を測る共通のものさしがないのが現実でした。建物の断熱性能はハウスメーカーによって著しくばらつきがあるのに、すべて「次世代省エネ基準をクリア」を掲げることでひとまとめにされてしまっているのです。
EUでは、各国に「住宅のエネルギーパフォーマンス表示制度」と呼ばれるものがあり、新築住宅・中古住宅を問わず省エネ性能の表示が義務付けられています。これは、住宅が冷暖房・除湿・換気・給湯・照明に要する一次エネルギー消費量※1を「床1㎡あたり年間○○kWh」と明確に数値化したものです。これに基づき、各国で一定以上のパフォーマンスを確保できなければ建築が認められず、反対に良い数値が出ている住宅については補助金の支給やローン金利の優遇といった政策がとられています。
※1 一次エネルギー消費量
電気やガスなど、住宅で消費するエネルギーを作り出すために必要なエネルギー(石油・石炭)を熱量で表したもの。
一次エネルギー消費量と暖房負荷によるマッピング
一次エネルギー消費量を基準としたEU諸国と同様の考え方で、消費者がハウスメーカー各社の住宅仕様を比較できるツールを提供できないか――そんな考えのもと、パッシブハウス・ジャパンが自社サイト「建もの燃費ナビ」※2で平成24年10月に発表したのが「建もの省エネ×健康マップ」です。
※2「建もの燃費ナビ」
2011年11年にパッシブハウス・ジャパンが開発した住宅の燃費(省エネ性能)計算のためのソフトウェア「建もの燃費ナビ」を展開するWEBサイト。「建もの燃費ナビ」の結果をオンライン登録したものが、「建もの省エネ×健康マップ」に反映される。「建もの燃費ナビ」体験版は本サイトより無料ダウンロードできる(建築業者向け)。
このマップでは、横軸で各メーカーの住宅の省エネ性能を表しています。住宅の間取り・面積・立地などがすべて同条件となるように換算しており、そのうえで一次エネルギー消費量を共通のものさしとして住宅が環境に与える負荷を測っています。
一方で、縦軸は暖房で必要とする年間のエネルギー量を表し、建物の断熱性能に比例しています。断熱性能が低い住まいほど、暖房している部屋としていない部屋、または部屋の天井近くと床近くなどで不快な温度ムラが生まれ、これが住む人の快適性や健康に大きな影響を及ぼしています。
残念ながら、現在日本では断熱性能が低い住宅も一般に普及しているのが事実です。東日本大震災以降、省エネを求める声は高まるばかりですが、このマップで左下方に位置するような低断熱の住まいに暮らす人に、「室温設定は控えめに」など呼びかけるのは非常に危険で、ほとんど犯罪的だと私は思います。断熱性能が低いにもかかわらず省エネ意識を高めてしまうのは、ヒートショックを助長するなど健康被害を生み出すことにしかなりません。
家づくりではまず断熱性能の強化を優先すべき
なお、マップ上にある次世代省エネ基準クラスの住宅に太陽光発電を4kW程度搭載すると、横軸ではパッシブハウスクラスと同レベルに並びます。つまり、断熱性能が多少低くても太陽光発電によって「高性能な省エネ住宅」になり得るのです。しかし、注意が必要なのは健康リスクと快適性を示す縦軸では大きな差が残るということです。省エネ性能が同じでも、健康に与える影響が全く異なるということは頻繁に起きています。
しばしば「省エネのため、新しく建てる家にはぜひ太陽光発電システムを載せたい。そのための予算もすでに確保している」といった施主の方に会いますが、このマップを見せて説明することで「同じ金額をかけて同じ省エネ効果が見込めるなら、太陽光発電より断熱強化を選ぶ方がメリットが大きい」ということを理解していただけます。家づくりでまず優先して取り組むべきは建物の断熱性能の強化ということを、ここであらためて強くお伝えしたいと思います。