パッシブハウス・ジャパン代表理事 森 みわ氏
2013年12月に開催された業界向けセミナー「省エネルギー建物、欧州連合(EU)と日本の対策と展望」から、
省エネ住宅について分かりやすくお話いただいた、(社)パッシブハウス・ジャパンの森みわ氏の講演内容をご紹介します。
【後編】日本ならではのパッシブハウスを考える
ドイツ発の高断熱高気密住宅・パッシブハウス
日本でも少しずつ認知され始めているパッシブハウスは、ドイツの物理学者ウォルフガング・ファイスト博士が発案し、1991年にパッシブハウス研究所(ファイスト博士が創設)で確立された省エネ基準です。「年間の冷暖房負荷」(※1)「気密性能」(※2)「住宅全体の一次エネルギー消費量」(※3)の3つの項目で一定の基準(※4)を満たすと認定されます。
この中で特にハードルが高いのが、年間の冷暖房負荷です。基準をクリアするためには冷房・暖房それぞれでエネルギー使用量を床1m2・1時間あたり15kW以下に抑えなければなりません。これを日本の次世代省エネ基準と比較すると、パッシブハウス基準では次世代省エネ基準の約2~3倍の断熱性能を求められることになります。
日本の伝統的住宅に「魔法瓶」の発想をプラス
パッシブハウスは近年どんどんグローバル化が進んでおり、その結果として日本でも徐々に知られてきていますが、単純にドイツ仕様の分厚い壁を日本に持ち込めばよいというわけではない点で注意が必要です。パッシブハウス基準をクリアするために必要な断熱性能は、建築する土地の気候によって異なります。
比較的温暖な日本の関東以西などでは、夏と冬のバランスを考えた設計が求められており、暖房負荷についてはドイツなどに比べればU値(壁や天井などの各部位の断熱性能を示す数値。低いほど高性能であることを示す)が多少大きくてもパッシブハウスとすることができます。
日本の伝統的住宅は省エネの観点からも理にかなっていると私は考えます。庇で夏の日射を遮り、南側に大きな窓を設け、風通しのいい間取りにして、蓄熱性と調湿性を併せ持つ土壁を使うというのは日本におけるパッシブデザインの定石です。住宅を、建築時から廃棄時までのライフサイクル全体で考えれば、建てる際のエネルギー消費量を抑えるために地域の自然素材を使った地産地消の家づくりも重要といえるでしょう。
一方で、日本ならではの湿気の問題は確かにあり、吉田兼好の「夏をもって旨とすべし」の時代には、木が腐るのを防いで住まいの寿命を延ばすため、冬の快適性を犠牲にせざるを得ませんでした。しかし、現在では発達した断熱・気密の技術があります。それを適切に用いることで、冬の暖かさを確保しながらシックハウスの原因にもなるカビの発生を防ぐことは十分に可能です。このように、日本の伝統的住宅にヨーロッパ式の「魔法瓶」の発想を加えて、快適性とエネルギー効率を向上させるのです。
ただし、東西南北に幅を持つ「日本」をひとくくりにして考えることはできません。地域ごとの気候風土を踏まえ、日射や通風、間取りといった各住宅の具体的条件を合わせたうえで、構造・デザイン・コストなどバランスのとれた家づくりが求められます。内部結露を防ぐためには気密シート、断熱材、構造用合板などの壁のレイヤを計画的に構成する必要がありますが、こうした水蒸気の動きのコントロールする壁はそれぞれの住まいに合わせて設計されるべきなのです。
ボトムアップで高める省エネ・健康性への意識
大手ハウスメーカーでは、効率的に大量生産するために一律の仕様を用いがちな傾向があります。その点、地域密着型の地場工務店には1棟ごとに工夫した設計ができるのが強みといえるでしょう。私が地場工務店に期待するのもその点であり、省エネ性・快適性に優れた良い家をつくるための新しい常識を、地域に根ざして活動する業者の方々に広めていきたいと尽力しています。
また、家づくりを考える消費者が意識を高め、ボトムアップで「こういう住まいがほしい」と働きかけていくことも極めて大切です。そのためにも、前回お話した「建もの省エネ×健康マップ」などを役立てていただき、住宅の省エネ性能・健康性能を正しく見つめていただきたいと願います。