日本エネルギーパス協会代表理事 今泉 太爾氏
平成25年12月に開催された業界向けセミナー「省エネルギー建物、欧州連合(EU)と日本の対策と展望」から、
省エネ住宅についてお話いただいた、日本エネルギーパス協会代表理事・今泉太爾氏の講演内容をご紹介します。
【前編】我慢を強いられる日本の住まい
暖房不足を我慢で補う日本
現在、低炭素社会の実現のために環境省が描くシナリオでは、2050年までにCO2排出量1990年比80パーセント削減が目指されています。その方向性として「家庭・産業部門」で示されるのが、家電製品の高効率化や太陽光発電の普及などです。断熱による省エネ化は主要検討リストには入っていません。
というのも、日本では断熱性や気密性といった住宅そのものの性能が驚くほど軽視され、低いレベルにとどまっているのが現実だからです。壁に使用する断熱材の厚みは5~10cm、開口部はアルミサッシのペアガラスでU値※4.65が標準とされています。これに対して省エネ住宅先進国のドイツを例に見れば、断熱材の厚みは30cm以上、開口部には木製サッシや樹脂サッシを用いてU値1.0程度とされるのが一般的なのです。
冬期、日本では寝室が10℃前後となる住まいが圧倒的に多く、寝室の室温が20℃を超えるのは高断熱住宅が普及している北海道ぐらいです。10℃という室温は、エスキモーが住居として使うイグルー(雪でできたかまくらに近い形態の住宅)の室温13~15℃に比べても低いもので、先進国では他に例を見ません。
「ヨーロッパと比べると日本は緯度が低くて暖かいから断熱は不要」など、しばしば誤解されることがあります。しかし、日本の北から南までの各地域とドイツ(ベルリン・ミュンヘン)の外気温を比較すると、北関東以北は日本のほうが寒いことが分かります。ヨーロッパは大西洋の海流の影響で流れ込んでくる暖気が気温を押し上げており、緯度の高さだけで一概に暑さ寒さを語ることはできません。
統計上、日本は世帯当たりのエネルギー消費量が低くなっているので省エネ大国のように見えますが、冬期室温が中国北部などの住まいと同レベルであることを思えば、本来必要な暖房エネルギーを我慢して節約しているだけと考えるほうが自然です。実際、現状の平均的な住まいで常時20℃の室温をキープしようと思えば、「払えない」ような光熱費が家計にのしかかってしまうからです。