日本エネルギーパス協会代表理事 今泉 太爾氏
平成25年12月に開催された業界向けセミナー「省エネルギー建物、欧州連合(EU)と日本の対策と展望」から、
省エネ住宅についてお話いただいた、日本エネルギーパス協会代表理事・今泉太爾氏の講演内容をご紹介します。
【後編】建物自体の性能向上が「将来の資産価値」につながる
投資効果を知れば、あえて低断熱住宅を選ぶ人はいなくなる
一部の建築業者からは、「断熱や気密はコストがかかるから施主が選ばない」など言われることもあります。しかし、住宅というコストがかかるものだからこそ、性能向上への投資効果をまず「見える化」しなければ、消費者は正しい判断できません。
高性能の代名詞だったはずの「メイドインジャパン」が住宅に関してのみ違うのは、「熱を大切に使う」という思想が欠けているからです。日本にはこれまで家の燃費を考える視点がありませんでした。自動車や家電では省エネ性能がきちんと表示されており、購入時には性能と価格を見比べて判断するものです。一番高い買い物であるはずの住宅だけが、燃費性能が分からないのは道理に合っていないといえるでしょう。
現在、日本の過半数を占めるのが新省エネ基準(1992年)で建てられた住宅ですが、モデルケースでは次世代省エネ基準(1999年)※の住宅との年間の光熱費の差は3.7万円程度となります。
この差は、例えばグラスウール断熱材の厚みを5㎝増すことで補えます。施工費込みでエンドユーザー価格で30万円もあれば、5㎝のグラスウール断熱材を追加して充填し、新省エネ基準を次世代省エネ基準へと性能アップすることができるのです。
住宅ローンを利用してこの断熱強化を行った場合、月々のローン返済額(35年ローンの場合)に占める断熱化コストは1,000円を切り、約年間1万円程度の投資となります。それによって年間3.7万円の光熱費が削減できて差引1.7万円が手元に残るなら、誰でも「やらない方が損」と考えるでしょう。
すべての住宅が客観的に燃費で測れるようになると、あえて低断熱住宅を選ぶ人はいなくなります。2020年の省エネ基準適合義務化を前に、今後は次世代省エネ基準以上の住宅が確実に求められてきます。一方で、灯油価格が過去10年間で1.7倍に上昇するなどエネルギー高騰が進んでおり、そうした中であればこそ住宅の省エネ性向上はいっそう意味を持つことになるでしょう。
住まいの資産価値と省エネ性能
省エネ住宅は、将来的な資産価値も併せて考える必要があります。このとき見逃せないのが「断熱・気密を重視した省エネ住宅」と「高効率家電や太陽光発電など設備中心の省エネ住宅」のどちらを優先すべきかという点です。
断熱・気密は、リフォーム時ではなく新築時に行うのが一番安くつきます。ほとんどが施工費という「手間賃」のため、将来的に安くなる見込みありません。かたや設備機器の寿命は5~10年程度で、後から買うほど高性能なものが低コストで得られるのが常識です。
つまりは、設備中心の省エネ住宅では資産価値が残りにくいのです。まずは建築物そのものの省エネ性能を高め、高効率な家電の採用や太陽光発電の設置はその後に考えるべきといえます。
この順序は、住宅の寿命が長いほど重要になります。日本の住宅の寿命はEU諸国と比べれば短いものの、それでも30年程度は使用されます。さらに現在は、長期優良住宅などの制度で長寿命化へと誘導しており、今後ますます「将来の資産価値」から断熱・気密を考える視点は欠かせなくなってくるでしょう。
住宅の燃費を明示する「エネルギーパス」制度とは
ドイツをはじめEU諸国に浸透するのが、「エネルギーパス」という住宅の燃費を表す制度です。この制度のもと、EUでは「この家は床面積1㎡あたり、1年間で○○kWhのエネルギーを消費する」と明示することが義務づけられており、それなくして住宅の売買や貸借はできません。
日本でも、2011年にはエネルギーパスの国内普及を目指した「日本エネルギーパス協会」が本コラムの著者・今泉氏により発足されています。同協会では2014年1月より、建築物の評価機関である日本ERIとの協働で、住宅事業者に向けたエネルギーパスの第三者認証サービスをスタート。住まいの燃費を客観的に評価し、消費者に示す新たな試みに注目が高まります。