間取りを考える前に始めたい、空間のグループ分け
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
敷地を購入し、敷地内での建物配置が決まったら、いよいよ間取り検討が始まります。しかし、いきなり具体的な間取りを考えるのは難しいものです。そこで役立つのが空間のグループ分け(ゾーニング)です。本コラムでは、ゾーニングを考える上で参考になるエピソードから始め、ゾーニングの基本的な考え方やコツをご紹介します。
親子水入らずの時間を過ごすための、ひとつながりの空間
ある日の我が家の夕暮れ時・・。私がキッチンで夕食の準備に忙しくしていると、学童保育から帰宅しダイニングテーブルで宿題をしている息子(小学校低学年)の様子が怪しくなってきました。だんだん表情が険しくなり、今にも泣き出しそうに・・・どうやら算数の問題が分からず、行き詰っているようです。放っておくと数分後にはきっと泣いたり怒ったりして宿題を放り投げてしまうでしょう。そこで、早めに近寄って声をかけ、アドバイスをしてやります。
やがて息子は宿題が終わると、大好きなマンガをリビングのソファで読み始めました。よっぽど楽しいマンガのようで、ときどき「フフッ」と笑う声がきこえます。ふと息子が「ねえ~、来て来て~」と私を呼びます。私が「今ごはんの準備で忙しいから、後で!」と言っても聞き入れません。「早く早く!」とせがみます。私と違って(?)短気な性格の息子ですから、このまま放っておけば怒り出して収拾がつかなくなるのは目に見えています。私は鍋をかけているコンロの火を弱めると、息子のところへ駆けつけます。息子はマンガのひとコマが気に入ったらしく「ねえ、これおもしろいよ!」とうれしそうに力説してくれます。
中には「そうそう、我が家も・・・」と共感される方もいらっしゃるのではないでしょうか。我が家は共働きのため、息子は小学校のあと学童保育に行き、夕方までずっと社会生活の中をそれなりの緊張感で頑張ってきています。ようやく夕食時に帰宅すると、寝るまでわずか3時間程度ですが、やっと親子水入らずの時間・・・ここぞとばかりにありのままの自分をさらけ出し、親に対して甘えも要求もしたがります。これを親として受け止めることも大事なことと、思っています。
前置きが長くなりましたが、そのような訳で我が家では親の目の届かない別の部屋に息子がいることはあまり現実的ではありません。息子に呼ばれる度に駆けつけるのが大変ですし、第一にまず息子のほうがそのような部屋には行きたがりません。起きている時間帯のほとんどを我々は1階にあるリビングダイニング・キッチン・ワークスペース、といったひとつながりの空間に様々なコーナーがあるワンルームで共に過ごしています。2階に将来子供部屋にできるスペースを確保してはいますが、それが日常使われるのはまだ何年も先になりそうです。
空間をグループ分けし、配置を考えていく「ゾーニング」
以上のエピソードは、間取り検討の初期段階の作業である「ゾーニング」を考える上での参考のため、ご紹介しました。
ゾーニングとは様々な機能や用途をもつ各空間をグループ分けし、それぞれのつながりを考えながら空間の配置を考えていく作業です。玄関・リビング・ダイニング・キッチン・水回り(トイレ・洗面所・浴室)・寝室・子供室など必要な空間を列挙し、それらを建物形状の中にどう配置するか、検討します。都心部で建てる住宅の場合、多くは2階建て・3階建てと積層していますから、どの空間をどの階に配置するかの割り振りも重要でしょう。そして、どの空間とどの空間を隣り合わせるべきか、場合によっては吹抜けやスキップフロアを利用して別の階どうしの空間をつなげてやる手法も考えます。
ゾーニングにあたって、基本的な考え方は「パブリックゾーンとプライベートゾーンに分ける」ということです。玄関・リビング・ダイニング・キッチン・トイレといった来客時に使われる空間を「パブリックゾーン」としてまとめて配置し、その他の水回り(サブトイレ・洗面所・浴室)・寝室・子供室・ワークスペース(スタディスペース)といった「プライベートゾーン」とは区分しておくと好都合です。来客に備えてきれいに片づけておくべき空間が限定されますし、来客時にも家族の他のメンバーが別のことをしていたり、具合が悪くて寝ていたりしているときにも、顔を合わせなくてすみます。
空間を上手に区切って「パブリック」と「プライベート」の両立を
さて、工夫が求められるのはここからです。
私は設計の際、「スタディスペース」や「ワークスペース」と呼ばれる、家族全員がデスクワークに使う空間や、「家事コーナー」と呼ばれる、お母さんがパソコンや家計簿に取り組んだり郵便物を処理したりするデスクワーク空間を設けることがありますが、これらは日常頻繁に使う空間のためリビング・ダイニング・キッチン廻りに配置すると使い勝手が良い半面、机上は書類が散乱していることもありますから、できれば来客時にはあまり見られたくない部分です。そんなとき、ゾーニングとしては「パブリックゾーン」に組み込みながらも、視線をカットできる程良い高さの造りつけ家具や間仕切りの建具で空間を区切ることで、解決したりします。
また、子供室は散らかりやすい空間ですから「プライベートゾーン」に入れてやりたいところですが、親が日常過ごすリビング・ダイニング・キッチンといった空間から目の届かない場所では、子供が小さいうちは名ばかりで使われない空間になりがちです。冒頭のエピソードでも触れた通り、我が家では現状、リビング・ダイニングが子供室も兼ねている状況です。この課題への対処としては例えば2つの方法が考えられます。
1) 子供室はプライベートゾーンに入れるが、これは子供が大きくなってから使うものと位置付ける。子供が小さいうちはリビングで遊び、ダイニングで勉強するようにする。その際、リビング・ダイニングにおもちゃや学用品の収納スペースをしっかりと設けておくことで、整理整頓が容易になるよう工夫する。
2) 子供室はプライベートゾーンに入れながらも、パブリックゾーンのリビング・ダイニング・キッチンなどと視線や会話が通るよう、吹抜け等でつなげる。
まとめ
このようにゾーニングの検討から始まり、気になる部分は吹抜け・家具・建具といった手法と併せて各空間の関係性を考えていく・・・そうして次第に具体的な間取り検討に移行していきます。さらに、外部空間との関係性も考えていきます。例えば「休日は明るい時間帯に庭を眺めながらゆったりと入浴したい」と思えば、水廻り空間が庭に面するようゾーニングすればよいのです。どうでしょう、ワクワクしてきませんか?是非、ご自身やご家族の生活の様々なシーンを思い浮かべながら、何通りもゾーニングのバリエーションを考えてみてください。きっと、「これだ!」と思うような案がみつかることでしょう!