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快適に眠れる寝室づくりの秘訣とは?

監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)

寝室の計画で大切なことは何でしょうか?・・・「心地よいベッドさえあれば良いのでは?」そう思う方もいらっしゃるかもしれませんが、いいえ、決してそればかりではありません。「健康で心地よい暮らし」のために欠かせないのは睡眠の質ですが、良質な睡眠を確保するため寝室には様々な配慮をしたいものです。本コラムでは「旅先で目覚めたときの忘れられない光景」のエピソードから始まり、「良質な睡眠を確保できる寝室の3要素」「『ベッド』『布団』2つの就寝スタイル」「寝室に必要な広さ」についてご紹介します。

旅先で目覚めたときの忘れられない光景

以前、伊豆の温泉旅館に行った時のことです。温泉に浸かりゆったりと過ごした翌朝、目覚めると、自分がやわらかい霧に包まれているような幻想的な光景がそこにありました。朝の光が障子越しに濾過され、優しくほのかな光となって部屋中を充たしていたのです。「なんて素敵な朝なのだろう・・」私は寝床に入ったまま、しばしその光景にわが身と委ね、心地よさを味わっていました。

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普段、朝起きた時といえば「もう朝か・・」とか「まだ寝ていたいなあ・・」という程度の気分のことが多いものですが、朝起きた時に目にする光景によってはこんなに一日のスタートが希望に満ちた気分になれるものかと、驚かされました。人が目覚める瞬間というのは、それほど五感が無防備で繊細な状態になっているということかもしれません。私はこの日のことを思い出すたび、「暮らしを豊かに彩るエッセンスとして、寝室のあり方も大切だな」と感じるのです。

 

良質な睡眠を確保できる寝室の3要素

寝室の計画で大切なことは何でしょうか? 良質な睡眠を確保するために必要なことをピックアップしてみましょう。

 

1)音

騒音は安眠を妨げる大きな要因となります。
まず夜間、家の外に騒音源がないかをチェックしましょう。車の多い通りに面する敷地であれば、なるべく通りとは反対側に寝室を配したいところです。隣地にアパートの鉄骨階段がある場合なども、コツコツという足音が良く聞こえる場合がありますので、寝室の位置には配慮が必要です。

また家の中での騒音源と寝室との関係もチェックしましょう。浴室・トイレなどの水回りの直下に寝室がある場合、家族が夜中に使用すると排水管のゴボゴボという音が騒音となる恐れがあります。家族の入浴や就寝の時間帯がバラバラの場合、洗面室でヘアドライヤーをかける音が騒音となったり、リビングのTVの音が騒音となったりする場合もあります。また時計や冷蔵庫など、家電製品から生じる音も敏感な人にとっては眠れない要因となる恐れがあります。このように、夜間の騒音源は家の外にも中にもありますので、そうした騒音源と寝室との距離を置くことが大切です。

なお、最上階に寝室がある場合、屋根の雨音が耳触りとなり眠れないというケースもあります。瓦屋根など重量のある屋根材の場合は音が出にくいですが、金属屋根など軽量の屋根材の場合はある程度音が発生します。これについては、野地板(屋根材の下地材となる板)と屋根材との間にインシュレーションボード(軟質繊維板)等の吸音性のある材料を入れるといった対策方法があります。以前私が手がけたお家でも、住まい手が「私は雨音で寝られないことがあって・・」という方だったため、上記仕様の設計にしたところ、完成入居後も「雨音は気にならずによく寝られます」とおっしゃっていただいたことがあります。

 

2)光

「私は真っ暗だとよく眠れる」あるいは「私は仄かな明かりがあるほうが安心して眠れる」など、眠るのに最適な光環境というのは個人差があるようです。ただ、度の過ぎた光は安眠を妨げる要素となりますので、やはり遮光の配慮は必要です。

家族内で就寝・起床時間が異なる場合、起きている人が点けた照明の光で寝ている人を起こしてしまうことがあります。寝室が完全に閉じた部屋であれば問題ありませんが、他の部屋と連続している場合は間仕切りによる遮光などを工夫するとよいでしょう。また、夫婦で就寝・起床時間が異なる場合、起きて着替えをする時に点けた照明の光で寝ている人を起こしてしまうことがあります。寝室内にクローゼットがある場合は、ベッド側に光が行かないようクローゼット側だけをピンポイントで照らす照明器具にする等の工夫が必要でしょう。それでも光が気になるという方は、ウォークインクローゼットなど、別室での着替えとしたほうが安心でしょう。

また、朝日が眩しくて必要以上に早く起こされてしまうというケースもあります。とくに夏至ごろは朝4時台から朝日が昇りますので、東側に大きな窓がある場合は、遮光性のカーテンやロールスクリーンを取り付けるといった対策が必要な場合があり得ます。一方で、起きた瞬間に朝の光をほのかに感じられる寝室というのもまた魅力的です。私の自邸では、東側(正確には東北側)に小さめの高窓(すりガラス入り)を設けており、そこからほのかに入る光が天井を優しく照らしながら室内を降りてきます。起きた瞬間、天井が朝の光で照らされているのを見ると「さあ、起きようかな」という気持ちになり、なかなか良いものです。もっとも、寝ているベッドの位置は直接朝日に晒されませんから、遅くまで寝たい場合も安眠を妨げられることはありません。

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(荏田町の家)

 

3)風

寝室の風通しも意外と重要です。夏の夜、窓を開けて風を通せれば、冷房をつけずに寝られます。もっとも、真夏には冷房に頼らざるを得ないような熱帯夜の日もありますが、それ以外の多くの日を冷房なしで過ごせれば省エネですし、体調も崩しにくくなります。

夜間、窓を開けるためにはプライバシーと防犯の課題をクリアする必要があります。プライバシーの点では、窓位置を部屋の端にしたり、高窓にしたりするなど、視線が入りにくいよう工夫する必要があります。防犯の点では、2階の寝室であれば侵入の難しい位置に窓を設ける工夫はできますが、1階の寝室であれば防犯格子をつける等の対策が効果的です。一般的で安価なものは外付けのアルミ面格子ですが、代わりにアルミサッシの内側に木製格子扉を設置するといったアイディアもあります。木製格子扉には鍵をつけることで、ある程度の防犯性をもたせます。格子が外からの視線を緩和すると共に、室内デザインのポイントにもなります。

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(朝霞の家)

 

「ベッド」「布団」2つの就寝スタイル

日本人の就寝スタイルには「ベッド」と「布団」の2つのスタイルがあります。皆さんはどちらがお好みでしょうか?

 

1)ベッドで寝る

現在では多数派ともいえる就寝スタイルです。フローリングやカーペット敷きの部屋にベッドを設置するという寝室のスタイルです。最大のメリットは寝具を日々しまわなくて良いこと。ベッドにより寝具が床から浮いているため湿気を逃がすことができ、寝具がかびる恐れもありません。また、床に敷いた布団に寝るのに比べ、ベッドで寝起きするのは特に足腰の不自由な方や高齢者にとっても動作が楽だというメリットがあります。

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(荏田町の家)

 

2)布団で寝る

日本の伝統的な就寝スタイルです。畳敷きの部屋に布団を敷くという寝室のスタイルです。布団を敷き放しではかびる恐れがあるため日々布団の上げ下ろしをする必要はありますが、布団を仕舞えば昼間は和室として多目的に空間を利用できる点がメリットです。面積に余裕のない家や、家族人数の多い家ではスペースの有効利用策として検討の余地があるのではないでしょうか。また、来客時の寝室としても使い勝手のよい就寝スタイルです。

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(朝霞の家)

 

寝室に必要な広さ

「布団で寝る」スタイルの場合、昼間は部屋を多目的な用途に使用しますので、その際に使うモノを仕舞う収納家具を設置する場合もあります。また「ベッドで寝る」スタイルの場合も、寝室に「寝る」以外の+αの行為を想定してスペースや家具を設える場合もあります。TVやソファを置き夫婦のプライベートなリビングとして設えてもよいでしょうし、デスクや本棚を置きスタディスペースとして設えてもよいでしょう。こうした「寝室での+αの行為」も鑑みた上で、寝室サイズはどれくらい必要か、見てみましょう。

 

1)洋室の場合

夫婦2人のベッドを置く寝室サイズはどれくらい必要でしょうか。クローゼットが別室なら、6畳あれば最小限のコンパクトな寝室がつくれます。8畳あれば、その中に壁一面のクローゼットを設置することもできます。10畳あればデスク・本棚などを置いた+αのスペースも確保することができます。

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2)和室の場合

布団を2人分敷くための和室は、押入れを除いた広さとして4.5畳が最小です。6畳あれば家具を置くこともできます。いずれも布団を仕舞う押入れが必要になります。

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まとめ

日々の生活において、睡眠時間は1日の3分の1近くを占めます。また外で仕事をしている人にとっては、帰宅してから翌朝出発するまで家で過ごす時間の大半を占めるのが睡眠の時間です。それほど、寝室で過ごす時間の割合は高いのです。したがって、自分の感性やライフスタイルに合った寝室を手に入れることは、とても重要なことなのです

新井 崇文

新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士

新井 崇文(あらい たかふみ)

自然素材に包まれた、住み心地の良いデザイン住宅づくりを目指す傍ら、共働き家庭で家事と子育てもこなすイクメン設計士。「生活者の視点に立った住宅設計」の専門家。
新井アトリエ一級建築士事務所 ホームページ ブログ
平成26年8月に 「荏田町の家」がTV番組「渡辺篤史の建もの探訪」にて放映

 

 

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