家を建てる前に知っておきたい、
自分好みの快適な浴室づくりのポイント
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
寒い冬の時期、手足が冷えてどうにもつらい・・・そんな方はいらっしゃいませんか?かくいう私もその一人。特に足が冷えていると安眠もできません。そんな時に心強い味方が「入浴」です。入浴すれば手足もポカポカ、冷めないうちに寝床にはいれば朝までぐっすり・・・。本コラムでは快適な暮らしに欠かせない浴室について「露天風呂に学ぶ入浴の醍醐味」「浴室を計画する際に知っておきたいこと」「浴室の魅力づくり」をご紹介します。
露天風呂に学ぶ入浴の醍醐味
以前、新緑の季節に青森を旅したときのことです。深い山間にひっそりと佇む、ランプの宿「青荷温泉」というところに泊まりました。ここでは夜、ランプの灯りによる素朴で美しい空間で時を過ごすことができますが、もうひとつ私が心打たれたのは露天風呂です。川べりの湯に東屋(あずまや)のような小屋がかけられているだけの簡素なつくりによる開放感と、ずっしりとした石積みに囲われている落ち着き感との双方が感じられる、心地よい露天風呂です。
湯に浸かっていると、川のせせらぎの音が心地よく身体に沁み込んできます。仰ぎ見れば山肌一面の緑、視線を下へ移せば湯面にも映り込む緑・・・大地と我が身が混然一体となる感覚が味わえます。
私はもともと風呂好きで、どこかへ出かける度に、その土地の風呂に入ることを楽しみにしています。ゆったりと風呂に浸かるだけでも体が芯から温まり心地よさに包まれますが、その空間が素晴らしければ心地よさは何倍にも増幅します。素晴らしい風呂に出会った時の感動はひとしおです。
住宅において、このような自然豊かな露天風呂・・・はさすがに難しいとしても、自分好みの心地よい風呂をつくることができれば、日々の暮らしはより豊かなものになります。そしてそれは、家を建てるときの意志と工夫次第で実現可能なことなのです。
浴室を計画する際に知っておきたいこと
まず、住宅の浴室を計画する際に知っておきたい基本的な事柄について、ご紹介します。
●配置
家の中のどこに浴室を配置するか・・・これについては、「浴室はどの室の近くにあると便利か」を考えることが肝要です。考えていくと、2通りのタイプが出てきます。なぜなら、浴室と仲良しなのは・・・「キッチン」と「寝室」の2つだからです。
1) キッチン隣接タイプ
浴室をキッチンに隣接させれば家事動線が合理的という考え方です。洗濯や風呂掃除をキッチン作業の合間に進めやすいという利点があります。
2) 寝室隣接タイプ
浴室は裸になるところですから、着替えが置いてある寝室の近くにあれば便利という考え方です。
あなたはどちらのタイプが好みですか?プラン上、キッチンと寝室が同一フロアに配置できれば、双方を叶えることも不可能ではありません。
●換気
浴室は湿気が発生するところであり、入浴後も湿度が高いままだとカビが発生してしまいます。できれば浴室には対角に2ヶ所の窓を配置し、風が抜けるよう計画したいところです。
プラン上、もし1箇所しか窓を配置できない場合、入浴後は給気用に窓を開けた上で、換気扇を一晩(あるいは24時間)運転し、湿った空気を排気しておけば安心です。
●方式(浴室のつくりかた)
浴室のつくりかたは大きく分けて3つあります。
1)「現場施工(在来工法)」
現場で職人さんがつくる昔ながらの方法です。施工手間がかかるので、ある程度の費用はかかりますが、床・壁・天井及び浴槽の素材や形状を自由に設計できるメリットがあります。「床は十和田石、壁・天井と浴槽は青森ヒバで・・」など、木や石といった自然素材をふんだんに使った、まるで高級旅館のようなこだわりの浴室をつくることも可能です。
(画像引用:http://www.kishinan.co.jp/shop/zoom_bath/index.php)
2) ユニットバス
メーカーの工場で浴室全体をいくつかのユニットとして生産したパーツを、現場に運んできて組み合わせ据え付ける方法で、今では一般的な方法となっています。簡素なつくりで廉価なものから、付加設備が充実した高価なものまで、様々な製品が出ています。規格品のためプラン・形状・素材の自由度はさほどありませんが、防水性に優れているメリットがあるため、上階に設置する場合も安心です。また保温性に優れた製品も出ています。
3) ハーフユニットバス
腰から下をユニットバスで、腰から上を現場施工(在来工法)でつくるという方式です。防水性の良さというユニットバスの長所を備えつつも、腰から上は自由な素材・形状でつくれるという現場施工(在来工法)の長所も併せ持つ方式です。ある程度価格を抑えつつも、自然素材を用いるなどこだわりの浴室をつくることができます。
(荏田町の家)
浴室の魅力づくり
心身ともにリラックスできる入浴の時間を、より魅力的なものにしたい・・・。それには冒頭で露天風呂のエピソードをご紹介した通り、自然や外部とのつながりをもたせる手法が有効です。光・風・緑といった豊かなものは外からやってきます。そういった、外部にある要素を取り込むことで、心地よい浴室をつくることができます。
例えば南側に浴室を配置してはどうでしょう。昼間は明るく、冬でも比較的暖かく、カビも生えにくい、快適な浴室がつくれます。庭の緑も眺められます。「でも、日当りの良い南側はリビングなど居室も配置したいので、とても浴室に充てる余裕はない・・・。」そのような場合は、リビングと浴室とを別の階に割り振る手法が有効です。リビングが1階であれば浴室は2階に、リビングが2階であれば浴室は1階に・・・。そうすれば、リビングも、浴室も、共に南側に配置することが可能です。
参考例として、私の自宅兼事務所である「荏田町の家」をご紹介します。中庭に面した南側のエリアに、1階は玄関とリビング・ダイニング、2階は浴室と子供部屋を配しています。外に開かれた浴室をつくるにはプライバシーの確保も必要ですが、浴室の外にあるバルコニーの手すり(木ルーバー)が、外からの視線カットの役割を果たしています。明るい時間から、窓を開け、空を眺め、そよ風に吹かれながら入浴するのは実に心地よいものです。
まとめ
高温多湿で汗ばむ気候、そして豊かな水資源といった日本の地理的条件と、清潔好きという日本人の国民性から、入浴という習慣は日本人の日々の暮らしに欠かせないものとして育まれてきました。家づくりにおいて、自分好みの快適な浴室をつくることができれば、住み始めてからの満足度は非常に高いものとなるでしょう。是非、夢を、イメージをふくらませていただきたいと思います!