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住宅設備との賢い付き合い方とは?

監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)

世の中には住宅設備の情報があふれています。この膨大な情報の中から、自分の家にふさわしい設備をどのように選んだら良いか、途方に暮れる方も多いのではないでしょうか?本コラムでは、そんな住宅設備との賢い付き合い方を身につけるため、「住宅設備の考え方」「住宅設備の選び方」「住宅設備の配置手法」についてご紹介します。

住宅設備の考え方

住宅設備には様々なものがあります。照明・コンセント・インターホンやTV・LANなどの「電気設備」、冷暖房や換気扇などの「空調設備」、キッチンや洗面・浴室などの「給排水衛生設備」といったものがあります。これら様々な設備を計画・採用するにあたり、留意しておきたいことが2つあります。

 

1)設備の寿命は短い
建築(設備以外の部分)の寿命は少なくても30年以上、その後も10年単位できっちりメンテナンスをしていけば50年、100年と使い続けることが可能です。それに対して設備の寿命は短く、製品については一般的に10~15年です。メーカーの部品ストック期間が限定されていることもあり、仮に状況が良くてそれ以上の年月使い続けられたとしても、どこかの部分が故障した段階で修理対応が難しく、その時点で買い換えというケースが多々あります。つまり、建築にお金をかけるのであればその価値は末永く残りますが、設備にお金をかけても10~15年でそれはなくなってしまうというわけです。

よって「まずは建築で出来ることを考え、それでも出来ないことを設備で補う」という考え方が大切です。つまり「設備は建築を補うもの」というスタンスです。それには自然の力を最大限に利用することが大切です。例えば、日射を十分に取り込み、断熱材をしっかりと配した家にすれば、暖房設備は最小限で済みます。「その設備は果たして必要か?」というところから考えていくことが大切です。

また今では「便利な暮らしを、より便利にしよう」とばかり様々な付加機能をつけた製品も出されていますが、機能があればあるほど費用も高くなり、また故障の心配も増えるというものです。設備の寿命は短いということを考えると「その機能は果たして必要か?」という目をもち、シンプルな設備を選ぶことも大切です。

2)設備はランニングコストがかかる
建築とは異なり、設備は使用した分だけ電気代・ガス代・水道代といったランニングコストがかかります。例えば、暗くなりがちな北側の部屋では昼間から照明を点ければ電気代がかさみますが、自然光を取り込めるよう高窓を設けるなど建築での工夫がされていれば昼間にさほど照明を点けずに済み電気代を抑えることができます。「明るさ」「暖かさ」など必要な要素をなるべく建築の工夫で実現し、設備は必要最小限とすることで、ランニングコストを抑えた家にすることができます。

考えてみれば、昔の家は電気もガスもさほどなく、設備は最小限でした。その分、建築には先人から受け継がれた工夫が随所にこらされていました。例えば、日の光を受けた障子面は照明器具のように発光し、部屋全体に光を拡げました。また、南側の深い軒の出は夏の日射を防ぎ、冷房がなくても暑さをしのげる暮らしを可能にしていたのです。

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障子面全体が日の光を受け、あたかも照明器具のように輝く(旧安田楠雄邸)

 

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南側の深い軒の出が夏の日射をカットする(旧安田楠雄邸)

 

住宅設備の選び方

住宅設備を選ぶ際、検討すべき点は「性能」「デザイン」「メンテナンス性」です。

 

1)性能
住まい手にとって必要な性能を見たしていること、かつ過剰な性能を求めるとコストアップになりますので、「過不足ない性能」の設備を選ぶことが大切です。

2)デザイン
デザインとは「素材」「色」「形状」等の要素の組み合わせから出来ていますが、大切なのは設備単体のデザインの良さだけではなく、空間全体に調和しているかどうかです。ひとつの空間の中には数々の設備が同居していますが、それらひとつずつが仮に良いデザインだとしても、空間全体としてのデザインの方向性が一貫していなければ「いいなあ」という印象を人に与える空間にはなりません。ありがちなのは、空間全体の美しさを設備器具が乱してしまっているケースです。特にシンプルなインテリアでまとめるデザインの場合は「照明器具が目立ちすぎないように」「冷蔵庫が存在感ありすぎないように」「エアコンが目障りにならないように」とひとつひとつの設備器具の色や形を吟味する必要があります。

また、キッチン設備については「システムキッチン」としてメーカーの製品をパッケージで導入するのが手軽ではありますが、システムキッチンの仕上材は塩ビ製のプリントシート等が多いため、木や漆喰など自然素材のインテリアとは調和せず、キッチンだけ別の雰囲気になりがちです。それを防ぐため、キッチン家具を木製で大工さんに製作してもらう方法があります。既製品に頼りすぎず、可能な部分は木工事で造るという手法です。

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大工工事で製作したキッチン家具の例。仕上げはシナベニヤ。(荏田町の家)

 

照明器具は、見た目のデザインだけでなく、点灯したときの器具の光り方や、光の広がり方の美しさも大切です。これは設計者の仕事ですが、採用する照明器具は点灯状況を実物で確認しておくことが大切です。

3)メンテナンス性
メンテナンスしやすいということは、暮らしのストレスが大幅に減るということです。特にキッチンの換気扇・洗面器・ユニットバスなどは清掃の頻度や労力が大きい部分ですので、メンテナンスしやすい製品であることが大切です。

 

住宅設備の配置手法

住宅設備をただ設置するだけでは美しい空間はできません。配置にもいくつかのコツがあります。

 

1)目立たせない
例えばエアコンを設置する場合、冷風が欲しいというのが目的であって、エアコン本体は見えないのがデザイン上ベストです。「欲しいのは機能であり、機器ではない」というわけです。壁・天井に埋め込む「隠ぺい型」の機器を採用できればデザイン上は申し分ありません。ただしコストが比較的高いので、実際には通常の「壁掛け型」を採用する家が多いと思います。その場合も、まずはなるべく「目立たない」部分に設置することを考えます。次に、「納まりよく」設置することを考えます。少し壁を凹ませた部分に取り付けたり、ルーバー状のカバーを設けたりする方法があります。カバーを設ける場合はエアコンの効きが悪くならないよう、吸いこみと吹き出しのスペースは十分に確保するように気をつける必要があります。

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壁を凹ませてエアコンを設置し、ルーバー扉をかぶせた例。ルーバー下部には隙間を大きくとり、吹き出しを妨げないよう配慮している。(朝霞の家)

2)まとめる・そろえる
部屋の中に多くの器具がバラバラと配置されていると、「うるさく」「煩雑に」見えてしまいます。対策として、複数の機器を近くに設置する場合は、なるべく近づけてひとまとまりにするとすっきり見えてきます。その際、「ラインをそろえる」「間隔をそろえる」など配置を工夫すると、美しく見えます。器具ひとつずつの詳細寸法を確認したり、配置図を描いて現場へ指示したりと、設計者にとっては手間のかかる地道な作業ですが、これをやるかやらないかで出来上がった空間の美しさが俄然変わってきます。こういったことも重要なデザインワークなのです。

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玄関廻りの器具をまとめて配置した例。インターホンと照明スイッチのセンターラインを
そろえ、横にある小物入れの扉と下端ラインもそろえている。(荏田町の家)

 

まとめ

住まいを人の体に例えるならば、建築は骨や肉、設備は血管や器官、といえるでしょう。現代の住宅において、設備はライフラインともいえる重要な位置を占めます。同様に、建築も長期間の風雨に耐え、光や風といった自然の恵みとの関係性を左右する大切な要素です。大切なのは建築と設備をトータルでバランスよく考える視点です。家づくりに際しては各設備を吟味することも大切ですが、設備にこだわりすぎないというスタンスも重要です。

新井 崇文

新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士

新井 崇文(あらい たかふみ)

自然素材に包まれた、住み心地の良いデザイン住宅づくりを目指す傍ら、共働き家庭で家事と子育てもこなすイクメン設計士。「生活者の視点に立った住宅設計」の専門家。
新井アトリエ一級建築士事務所 ホームページ ブログ
平成26年8月に 「荏田町の家」がTV番組「渡辺篤史の建もの探訪」にて放映

 

 

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