自分に合ったキッチンライフを実現するための間取り
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
「キッチンとダイニングとの関係」というテーマは、家のプランにおける主要トピックのひとつです。本コラムでは、キッチンでの日常生活のエピソードから始め、3つのタイプに大別されるキッチンとダイニングの関係、キッチンレイアウトの基本原則をご紹介します。
リビングダイニングにいる子供を見守り、声掛けしやすいキッチン
私が以前設計したお家のお施主さんからご招待いただき、訪問したときのことです。このお家のキッチンはセミオープンで、流しや調理台で作業しながらも視線を上げるだけでリビングダイニングが一望できるプランになっています。
泊まった翌朝、私がダイニングテーブルに座っていると、奥さまが朝食の用意や洗い物をしながら小学生の2人のお子さんに「ご飯できたよ、あと○○分で出発だから時間気にしながら食べてね!」「持ち物は○○を忘れずにね!」「靴下は今のうちに履いておいてね!」などと指示出しをしていました。台所仕事をテキパキとこなしながら同時に子供たちへ的確な指示出しをしている奥さまの颯爽とした立ち振る舞いに、私はただただ感心する思いで見ておりました。
我が家も小学校低学年の息子がいるのでよくわかるのですが、この年頃の子どもたちはまだ「時間を気にしながら行動する」という習慣を身につける途上にあるため、ちょっと目を離すと、食事の時間でも手近にある本やマンガなどの誘惑にフラフラ・・と席を立ったり、ボーっと物思いにふけっていたり、そして学校に行く時間が迫ってしまい「急いで!」と親がせき立てても、どうやって急いだらよいやら分からず、一つでも気になることがあると次の作業に進めずイライラしてしまったりと、まだまだ手がかかります。ましてや幼児であればなおさら目が離せないでしょう。そんな時、キッチンからリビングダイニングを容易に見渡せる構成になっていれば、子供を見守り、声掛けもしやすいと思います。
以上のエピソードは生活のあるワンシーンにすぎませんが、「キッチンとダイニングとの関係」というテーマは家のプランにおける主要トピックのひとつであると思います。
3つのタイプに大別されるキッチンとダイニングの関係
キッチンとダイニングの関係は、3つのタイプに大別できると考えます。今年はサッカーのワールドカップ(ブラジル大会)で沸いた年ですので、これらをサッカーのポジションになぞらえて紹介してみたいと思います。各タイプそれぞれに異なる特徴があります。
1)FW(フォワード)タイプ・・・オープンタイプのキッチン
FWといえば、敵陣ゴール前でボールを受けてシュートを決める、あの華々しいポジションですね。日本代表でいえば香川真司選手や本田圭佑選手といったところでしょうか。さてキッチンに置き換えればこれはオープンタイプのキッチンといえるでしょう。
ここではキッチンは主役です。ダイニングと一体空間となったキッチンでは、まさに家族や来客との会話の輪の中心にいながら、調理を行うことができます。また皆が調理に参加することもできます。そんな華々しいキッチンライフを実現できるのが、このタイプです。
ただ、あまりにキッチンが露出していますので、目障りにならないよう、いつもきれいに片づけたり掃除したりする配慮は必要となります。・・もっとも、逆に「うちはあまり料理をせず、買ってきた惣菜を温めて皿に盛りつける程度なので・・」という「料理しない派」にとっては、いつもきれいに保たれているキッチンをダイニング空間に取り込み広々と見せる空間演出法は極めて有効かもしれません・・。
2)MF(ミッドフィルダー)タイプ・・・セミオープンタイプのキッチン
MFといえば、攻守をつなぐ中盤の要であり、常に全体を見渡しゲームを組み立てるポジションでもあります。日本代表でいえば長谷部誠選手といったところでしょうか。これはキッチンに置き換えればこれはセミオープンタイプのキッチンといえるでしょう。
調理や洗い物をしながらもダイニングが一望でき、家族や来客との会話に参加できます。また、カウンターの立ち上りを設けるなどの工夫でダイニングからの視線をある程度カットできるため、調理時のキッチンの散らかりぶりを隠すこともできます。まさに攻守双方にバランスのとれたタイプといえるでしょう。
3)DF(ディフェンダー)タイプ・・・クローズドタイプのキッチン
DFといえば自陣深く攻め込んでくる相手選手の前に立ちはだかり、ボールやパスをカットして即座に味方の攻撃につなげる、「任せて安心」「縁の下の力持ち」的なポジションです。日本代表でいえば吉田麻也選手が有名なところでしょうか。これはキッチンに置き換えれば、クローズドタイプのキッチンといえるでしょう。
最大の長所はダイニングからキッチンの散らかり様が見えないこと。とかく本格的な料理をする方は、きれに見せるため常に片付けたり掃除に気を配らなければならないキッチンよりも、手の届く範囲に必要な器具や調味料が出しっぱなしにでき、多少汚しても気にならないキッチンを好む場合があります。調理の際には、限られた時間の中で手早く美味しい料理をたくさんつくるために、フライパンからの油はねやお鍋からの吹きこぼし、次から次へと出入りする調理器具が散乱することも気にしてはいられません。「キッチンは戦場だ」というような使い方をする方には、このクローズタイプのキッチンが料理に集中できて好まれるでしょう。天ぷらなど油を多く使う料理をしても、臭いがダイニングに拡がりにくいという利点もあります。
さあ、皆さんはどんなキッチンが欲しいと思いましたか・・?「料理をする」ということは生活の中の主要な行為のひとつですが、そのあり方が人それぞれ千差万別であるように、キッチンのあり方も十人十色でよいと思います。
調理動作の手順に沿った、キッチンレイアウトの基本原則
ただし、キッチン内のレイアウトには基本的な法則といえるものがあります。それは、調理の動作の手順に由来するものです。「これから食事をつくろう」というとき、皆さんはまず何から始めますか?
1) 冷蔵庫から食材を取りだす
2) シンクで洗う
3) 切る・刻む
4) 鍋で煮る・フライパンで炒める
という手順になると思います。では、この手順に沿った配列でキッチンをつくれば・・・使いやすいキッチンの出来上がり、ですね。キッチンの形状は全体プランとの関係でお家ごとに異なってきますが、この基本的な法則はどのようなキッチンの形状にも応用できます。
I型形状
L型形状
U型形状
2列型形状
これでキッチンの構成がだいぶ見えてきました。最後は、料理以外にもうひとつキッチンでつくられる(発生する)もの・・・そう、ゴミの対処についてです。特に日本では食材ひとつひとつの個包装が過剰な傾向もあり、食材を使う度に包装材のゴミが多く発生します。また、野菜や生鮮品を切る度に生ゴミも発生します。それらゴミの多くはシンク廻りで発生するため、シンク下のスペースなどをゴミ置き場に利用すると使いやすいでしょう。
またゴミ出しできる曜日はたいてい限られているため、それまでにゴミ置き場がいっぱいになった場合は、家の裏側などのサービスヤードにゴミを一時保管する場合もあるでしょう。キッチンが1階であれば、勝手口を設けることで、手早くゴミをサービスヤードに運ぶことができます。またキッチンが2階の場合は、小規模でよいのでサービスバルコニーを設けると、ゴミを一時保管したり、泥つきの野菜を外部に保管したりするのにも便利です。
まとめ
さて皆さん、ご自分やご家族にはどのようなキッチンライフが望ましいでしょうか?あれこれ考えたり、またご家族と話し合ってみたりするのも楽しいと思います。きっと、ご自分やご家族にとって最適のキッチンプランが見えてくることでしょう!