住まいの魅力と住み心地を決定づける窓のあり方とは?
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
住宅にとって、窓はなくてはならない要素です。窓は日常生活の様々な機能を満たすと同時に、住宅の魅力を決定づけるものでもあります。本コラムでは、「住まいに魅力をもたらす窓とは?」「基本をおさえよう!窓の種別とは?」について、ご紹介いたします。
住まいに魅力をもたらす窓とは?
どんな窓がお好みですか?」・・・そう問われて思い浮かぶ窓は、ひとそれぞれなのではないでしょうか。お気に入りのカフェの窓辺、旅先で見つけた美しい窓など、好きな窓のシーンには、そこで過ごした心地よい時間の記憶が伴っているように思います。もし、とっておきの窓辺を自分の家につくることができれば、そこには魅力あふれる日々の暮らしが待っていることでしょう。家を建てる動機として「こんな窓が欲しいから」という方がいてもそれは全然おかしくないと思います。それくらい、窓というのは家の魅力を左右する、大切な要素なのです。
私が今まで見てきた様々な窓の中で、特に魅力的だったものをいくつかご紹介します。
●透ける窓
以前私が名古屋に住んでいた頃、お気に入りの場所がありました。「徳川園」という庭園の中にある、「蘇山荘」という建物です。これは汎太平洋博覧会(1937年)の迎賓館を移築した歴史的建造物なのですが、現在はカフェとなっていて誰でも利用することができます。
3方向を庭園に囲まれた室内では自然の心地よさを感じることができ、まさに「透けた」感じの空間です。
庭園に面する3面は全て壁なしの連続窓で、あらゆる方向に外への視線が抜けます。窓は味わいのある木製建具で、程良い感じに入れられた桟がやわらかなベールのように室内を包み込んでいます。
内外が一体となりつつも、やさしく守られた室内空間がここにはあります。日本家屋のもつ「透けた」空間の心地よさに酔いながら「いつまでもここにたたずんでいたい」・・・そんな気持ちになりました。
●絞られた窓
静岡県掛川市にある「ねむの木こども美術館(設計:藤森照信)」を訪ねたときのことです。エントランスを入るとそこは閉ざされた、包み込まれるような白い空間ですが、その先に庭へ通じる、大きさの絞られた窓(ドア)が開いていて、「なんて素敵なシーンなのだろう」と感じ入った覚えがあります。
水の流れに例えれば、川幅が狭まると流れは急になります。それと同様に、囲われがちな空間に、大きさの絞られた窓が開けられると、そこへは強い意識が集中します。その窓の素材・形状が素敵だったり、窓の向こうの風景が美しかったりすると、それは極めて印象的なシーンとなるのです。
●居場所のある窓
神奈川県藤沢市の市民会館敷地内に「旧近藤邸」(設計:遠藤新)という住宅(1925年完成)が移築保存されています。この2階の一室には出窓状の空間があり、ベンチが造りつけられています。
このベンチに座れば背後からの光を受けて読書をするにもよいですし、ベンチの上に乗って足を延ばして座れば外の景色を楽しむこともできます。冬の晴れた日には日向ぼっこを楽しむ絶好の場所になることでしょう。外からの光や眺望といった「自然の恵み」を最もフレッシュに堪能できる窓辺に家具を作りつけて、人がたたずめる居場所をつくるのは実に素敵なことだと思います。
●印象的な光の入る窓
荏田町の家(私の自宅兼事務所)のリビングダイニングには、太陽高度の低い冬の時期になると空間の奥まで光が差し込み、漆喰の壁面に陰翳を映し出します。
冬の晴れた日の昼下がりにはこの美しいシーンを見ることができ、なんとも心温まる思いがします。このように印象的な光が入る窓がひとつあるだけで、住まいの表情はぐっと豊かになるものです。
●アーチ窓
以前メキシコシティを訪れたとき、「The Red Tree House」というホテルに泊まりました。全体は2棟の建物が中庭をはさむ構成となっています。1階のダイニングには美しいアーチ窓があり、その先に中庭の風景が見えています。
反対側のラウンジにも繊細な桟の入ったアーチ窓があり、樹木とその向うの街路へと視線が抜けています。
私はこれらのシーンを見て「ああ、いいなあ」と心温まる気持ちになりました。アーチ窓は伝統あるクラシカルなデザイン要素です。美しいアーチ窓は、人の目にやさしくとまり、温かな気持ちにさせる、そんな力があるように思います。
●幾何学模様の窓
前述した「旧近藤邸」(設計:遠藤新)には、幾何学模様の窓があります。デザインされたフレーム配置にガラスと板を嵌め込んだ窓です。窓自体のデザインと、窓の外の景色との両方を楽しむことができます。
近寄ってよく見ると、クレセント錠(防犯金物)の近傍はガラスでなくパネルになっていて、外部からガラスを部分的に切り欠き、手を入れて、クレセント錠を開けるということが容易にはできないよう配慮されています。機能性を兼ね備えたデザインをもつ、素晴らしい窓だと感じました。
以上、私の印象に残っている窓をご紹介してきました。「良い住宅には良い窓がある」・・・そう言っても過言ではないかもしれません。もしご自分の家にお気に入りの窓があれば、慌ただしい日常の合間に見つけた少しの時間であっても、落ち着いた、心豊かなひとときを過ごせるのではないでしょうか。
基本をおさえよう!窓の種別とは?
次に、家づくりに際して知っておきたい、窓の種別についてご紹介します。
●配置による窓の呼び方
配置による窓の呼び方についてご紹介します。
■掃き出し窓:下端が床面まである窓です。庭との出入りが可能で開放感もあります。
(朝霞の家)
■腰窓(腰高窓):下端が腰までの窓です。机・ソファや家具などを寄せて配置する場合に納まりの良い窓です。
(朝霞の家)
■高窓(ハイサイドライト):高い位置の窓です。外部からの視線をカットしつつ、採光・通風と空への眺望を確保できます。
(荏田町の家)
■天窓(トップライト):天井面の窓です。北側部分の採光に有効です。天窓は一般の窓の約3倍の日射量が見込めますので、夏場の熱負荷に配慮しながら配置や大きさを検討する必要があります。
(朝霞の家)
■地窓:低い位置の窓です。外部からの視線をカットしつつ、採光・通風を確保でき、庭の足元の植栽等の風景を室内に取り込むことができます。
(荏田町の家)
●開閉種別による窓の呼び方
開閉種別による窓の呼び方についてご紹介します。
雨が多く湿度の高い日本では、「多少の雨が降っても開けておける窓」が重宝されます。私が設計する場合、引き違い窓の場合は窓上に庇をつける、洗面室、浴室、トイレなどに設ける通風のための窓はルーバー窓にする、などの工夫をしています。
●サッシの材質
昔はみな、「木製サッシ」でしたが、その後工業化の流れで「アルミサッシ」が主流になりました。さらに断熱性能が重視される昨今では、アルミと樹脂を組み合わせた「樹脂サッシ」も採用されるようになりました。一方、木製サッシは風合いが良く、空間デザインに温かみをもたらすことができることから、根強いファンがいるのも現状です。現在では断熱性能も兼ね備えた木製サッシも開発されています。
木製サッシの例(荏田町の家)
●ガラスの種別
サッシに嵌め込むガラスも様々な種類があります。一般的な透明ガラスである「フロートガラス」のほか、視線をある程度カットする「型板ガラス」(ガラスの片面に型模様の入ったもの)、耐火性に優れた「網入りガラス」、断熱性に優れた「ペアガラス」(複層ガラス。2枚のガラスの間に空気層を設けたもの)、防犯性に優れた「防犯ガラス」(2枚のガラスの間に中間膜を挟んだもの)等があります。住宅全体の断熱性が向上している今日では、窓からの熱損失は全体の中で大きなウェイトをしめます。最小限の冷暖房で快適に暮らせる家をつくるためには、窓の断熱性が非常に重要です。
ペアガラス(複層ガラス)の構成
まとめ
光・風・緑・・・豊かなものは家の外からやってきます。同時に、断熱・視線・防犯など、外から内を守らなければならない面もあります。デザインと機能が多岐に渡って錯綜する部分が窓であり、家を設計する上で極めて重要な要素です。是非、窓のあり方をしっかりと考え、納得のいく家づくりをしていただきたいと思います。