「部屋が片付く」「使いやすい」「美しく見せる」収納とは?
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
住まいの完成度は「建物が出来上がって50%、住み始めてから残り50%」と言われます。住まいには人とモノが入ります。人が心地よく動けるプランであることはもちろん、モノが美しくおさまるプランであることも重要です。スッキリと片付いたリビングダイニングに味わいのある雑貨や美しい小物・器具などを飾り、時々刻々と変化する光のうつろいを楽しむ・・・そんな豊かな生活を実現したいものですね! それには雑多なモノを納める造りつけ家具や収納空間を適切に設計することが重要です。
本コラムでは、暮らしをサポートする収納のタイプ分けから始まり、居心地よい空間をつくるための収納のあり方や、効果的な収納のアイディアについてご紹介します。
暮らしをサポートする収納のタイプ分け
家の中を片付け美しくしつらえる際に、無くてはならない相棒が「収納」です。でも一口に収納といっても、様々な形態があります。ここではそれらを分かりやすくタイプ分けしてみたいと思います。・・・そういえば、むかし「だんご3兄弟」という歌がはやりましたが、ここではそれを文字って「収納3兄弟」と名付けてみます。この3兄弟、みなそれぞれ個性がありますが、3人の力をうまく合わせれば、必ずや暮らしをサポートする強力な相棒になってくれますよ!
収納3兄弟① 長男・・・「部屋収納」タイプ
トップバッターは収納3兄弟の長男・・・これはすなわち、納戸やウォークインクローゼットのような「部屋収納」タイプです。
「部屋収納」タイプは大から小まで様々なサイズのモノを自在に納めることができ、急にモノが増えたときや急な来客時の片付けにも「まずはここに突っ込んでおく」という緊急避難先として役立つ収納です。まさに包容力があって面倒見の良い「長男」のような存在の収納と言えるでしょう。家の中が散らかるのを救ってくれる、とても責任感の強い相棒です。
ただ、この相棒との付き合い方にも配慮は必要です。何でも受け入れてくれるからと言ってモノを乱雑に詰め込みすぎると、そのうち奥のモノが取りだせない荒れた収納空間となり、せっかくモノを持っていても必要な時に出てこないために同じモノを重ねて買ってしまいさらにモノが増えていく・・・という悪循環に陥る恐れがあります。一時的に荷物が増えた時など緊急避難的にモノを詰め込むにも便利な収納ではありますが、時々大掃除をしてモノを整理・処分するなどきちんと労わりをもって接するのが、この相棒との賢い付き合い方です。
収納3兄弟② 次男・・・「隠し収納」タイプ
次は収納3兄弟の次男・・・これはすなわち、扉付きの棚や引き出しのような「隠し収納」タイプです。
「隠し収納」タイプは家の中のどこでもちょっとしたスペースがあれば設置でき、どんな見栄えのモノがやってきても空間の美しさを損なわずにしまうことができる収納です。まさに兄弟の真ん中で揉まれて育ちタフさと柔軟さを併せ持つ「次男」のような存在の収納と言えるでしょう。家の中のあらゆる場所で片付けをサポートしてくれる、頼りがいのある相棒です。
ただ、この相棒との付き合い方にも配慮は必要です。何でも隠して仕舞えるのが便利なあまり家じゅうをこの「隠し収納」タイプで造ってしまうと、頻繁に使うものまでいちいち扉を開け閉めして仕舞うのは面倒なため、いつしか机やカウンターの上に雑然とモノが溜まり始める・・といったことにもなりかねません。また、家具というものは扉部分にかかる費用が特に高いため、「隠し収納」タイプが多いほど、家具の製作費用も高くなる傾向にあります。頼りがいはあるけれどあまり頼りすぎずに・・というバランス感をもってこの相棒とは付き合うとよいでしょう。
収納3兄弟③ 三男・・・「オープン収納」タイプ
さいごは収納3兄弟の三男・・・これはすなわち、オープン棚や飾り棚のような「オープン収納」タイプです。
「オープン収納」タイプは一目でモノの在りかが分かり、出し入れもしやすく、使いやすい収納です。また、飾り棚としてオブジェや美術品を美しく飾り、生活空間を彩ることもできる収納です。まさに兄弟の末っ子で可愛がられて育ち明るく華やかな「三男」のような存在の収納と言えるでしょう。生活のあらゆるシーンでいつも手助けをしてくれる、親しみやすい相棒です。
ただ、この相棒との付き合い方にも配慮は必要です。どんなモノもそのまま隠さず陳列されますので、このタイプの収納の割合が多いほど、持ち物も良いモノを選んで身の回りに置く努力が必要となります。また、置き方も見た目が良いように整然と置く努力が必要となります。この相棒との仲を深めるには、自らの暮らしのセンスを磨いていく姿勢が求められるでしょう。もちろんその先には・・・お気に入りのモノに囲まれた、美しく心地よい暮らしの風景が待っているにちがいありません。
さて、これら収納3兄弟・・・実にそれぞれ個性があり、長所短所もあることがお分かりになったかと思います。家づくりにおいては、皆さんそれぞれのライフスタイルを考えながら、これら3種類の収納タイプを適材適所でうまく組み合わせていくことが大切です。例えば、モノが少なくこまめに整理整頓でき、こだわりの美しいモノをきれいに飾って過ごしたいという方は、「オープン収納」タイプをふんだんに配したプランが適していますし、あまり見栄えの良くないモノが多いという方には「隠し収納」タイプを主体にしたプランが適しているかもしれません。また、どうしても片付けが出来ずモノが増えてしまう・・という方は「部屋収納」タイプを多めに配したプランが適しているでしょう。
居心地よい空間をつくるための収納のあり方とは
皆さん、友人知人のお宅を訪問して、あるいはお気に入りのカフェで気ままな時間を過ごして、「なんだか居心地よかった・・」と感じた経験があれば、それはどんな空間だったか思い出してみて下さい。美しく片付けられた空間、でもあらゆるモノが仕舞いこまれているわけでもなく、味わいのある雑貨や美しい小物・器具などがバランスよく飾られていて暮らしの雰囲気が出ている・・・そんな温かみのある空間だったのではないでしょうか。雑多なモノは「部屋収納」や「隠し収納」に仕舞い、飾りたいものや頻繁に出して使うものは「オープン収納」に配置する・・・収納を設計する際にはそのバランス感が大切だと私は思います。
(朝霞の家)
これは効果的!・・・様々な収納のアイディア
さて次は、限られたスペースの中でいかに収納をうまく配置するか、というアイディアを見ていきましょう。造りつけ家具をうまく設計することで、決して広い家でなくても十分な収納を確保した住みやすい家をつくることは可能なのです。
壁面全体の収納
壁面全体に造りつけ家具で収納を設けることは、収納量が確保できて極めて有効です。玄関だったら靴やコート類を、リビングやスタディコーナーであれば本や小物を、キッチンだったら食品を、寝室だったら衣類を収納するのに大変重宝します。それぞれ隠し収納にするかオープン収納にするかはご自分の持ち物の内容やライフスタイルに合わせて決めていくと良いでしょう。
(荏田町の家)
段差を利用した引出し収納
小上がりのタタミコーナーや、シーン切り替えるためのレベル差のしつらえの部分を利用して、床下の引出し収納を設けることができます。
(荏田町の家)
玄関廻りの小物入れ
外出時に持っていく鍵、定期入れや、宅配便が来た時に使う印鑑、ちょっと外へ出るときにつける虫よけスプレーなど、玄関廻りで必要になる小物は皆さんどこに置いていますか? 玄関のカウンター上などに置いておいてもよいのですが、雑然とするのを防ぐため専用の小物入れを玄関壁面に設置するとなかなか便利です。
(荏田町の家)
まとめ
現代の日本人は、世界的にも歴史的にも稀にみるほど多くのモノを所有する生活をしています。このモノたちとどう付き合っていくか・・? 心地よい住まいをつくる上で、その課題と真正面から向き合うことは欠かせないと言えます。そのときに強力な相棒となってくれるのが収納です。皆さん、自分の持ち物と向き合い、そして自分のライフスタイルに適した収納のあり方を考えてみてください。きっと、心地よい暮らしの風景が見えてくることでしょう!