「風通しのよい良い家」のつくりかた
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
省エネ意識が高まる中、なるべく冷房に頼らず快適に過ごせる家をつくることはますます重要になってきています。カギとなるのは「通風」に関する知識と工夫です。本コラムでは、「自然の風が通る部屋で過ごす心地よさ」についてのエピソードから始め、「風通しの良い家を実現するために知っておきたい2つの手法」や「夜間にも通風できる工夫」について、ご紹介します。
自然の風が通る部屋で過ごす心地よさ
夏に沖縄の石垣島を訪れたときのこと・・。ある日、川平湾に程近い山間部のペンションに宿をとりました。とても簡素な建物でしたが、客室は南北2方向に開口部があり、常に心地よい風が流れていました。夏の石垣島ですから気温・湿度はそれなりに高かったと思いますが、風通しが良いため冷房なしで一晩中過ごせます。そして何より、自然の風が通る部屋で過ごすのがこんなに心地よいものだということにあらためて驚き、感動した覚えがあります。自然の風には、人の心身に働きかけ作用する何か不思議な力があるように思えてなりません。
風通しの良い家を実現するために知っておきたい2つの手法
風通しの良い家・・・これが実現できれば、省エネ・冷房費節減になるだけでなく、何よりも心身に優しい、心地よい暮らしを手に入れることができます。では、どうすれば・・・? 風通しの良い家を考えるには、まず風や気流の性質と、それを利用する手法を知る必要があります。2つご紹介しましょう。
1)必要な自然風は南から北へ吹く・・・南北通風
日本列島でも地域差はありますが、一般的に春~夏~秋の風通しが必要な時期の風は南から北へ吹きます(各地域の風向きは気象庁HPで調べられます)。風というのは気圧の高いところから低いところに向かって吹くもので、日本では夏場、大きな太平洋高気圧が南からやってくるためこのようになります。この自然風を室内に取り込むには、南北2面に窓をとることが効果的です。すると、南側から入った風が建物内を抜けて、スムーズに北側から出ていきます。この手法を「南北通風」と私は呼んでいます。
2)建物内では低い位置から高い位置へと上昇気流が生じる・・・温度差換気(重力換気)
周囲より温かい空気は(質量が軽いため)上昇する性質があります。暖房をつけた室内で、「頭のほうは暖かいけれど、なんだか足元はひんやりする」という経験をされた方もいるのではないでしょうか。また2階建ての家では冬場、「2階は暖かいけれど1階は寒い」という経験をされた方もいるでしょう。これらは自然対流の性質から起こることです。
この性質を換気通風に役立てるためには、建物の低い位置と高い位置に窓をとることが効果的です。すると、低い位置の窓からは冷たい空気が入り、それが建物内を上昇していき、暖まった空気は高い位置の窓から出ていきます。この手法を「温度差換気(重力換気)」といいます。
以上2つの換気通風手法をうまく利用すれば、風通しのよい家が実現できます。敷地環境にもよりますが、海際や高台など常に自然風がよく通る敷地では南側と北側の2面にしっかりと窓をとることで、南北通風を主体に計画すればよいでしょう。また密集市街地など自然風があまり期待できない敷地では建物の最下部と最上部に窓をとり、温度差換気を主体に計画すればよいでしょう。
夜間にも通風できる工夫
上記2つの手法を組み合わせた換気通風の事例として私の自宅兼事務所(荏田町の家)をご紹介しましょう。
1階のダイニングの足元には地窓を設けています。
この地窓の外側は隣家との隙間であまり陽が当たらない場所であるため、ここを開けると室内にひんやりとした空気が入ってきます。入った空気はダイニング・キッチンを抜け、階段を上昇していき、2階上部・ロフト横の高窓(北側)から出ていきます。
また、1・2階とも南側の窓を開けると自然風が室内に入り、家じゅうを通り、これも上述の高窓(北側)から抜けていきます。
このように、南北通風と温度差換気を併用した換気通風を図ることにより、春~夏~秋の大部分の時期は冷房をさほど使わず、心地よく暮らすことができます。
とはいえ、気温30度を超すような猛暑の日には、さすがに窓を閉めて冷房に頼らざるを得ません。ただそのような日でも、日没後は窓を開けて夜間の涼しい外気を室内に取り込み建物を冷やします。そして朝にはまた窓を閉めておけば、午前中はある程度冷房をつけなくても室内の涼しさが保たれます。
冷房の使用を最小限に抑えるためには、夜間にも通風できる配慮は大切です。そのためには、防犯・プライバシーとの両立が欠かせません。上記事例では、1階の地窓は隣家との隙間に面し、外からの視線が気にならない位置とした上で、防犯格子付きとしています。1階南側の窓は視線をカットしながら風を通し防犯の錠も仕込んである簾戸(すど)を設置しています。2階の南側の窓や北側の高窓は高所のため開けていても視線や防犯の面では気にならない位置となっています。このような工夫により、夜間にも通風できる家を実現しています。
まとめ
「風通しのよい家」を実現するには、開口部の高さ位置・方位・防犯・プライバシーなど、細やかな配慮が必要です。また、1階で空気を採り入れる窓の外側の地面が直射光にさらされる舗装やデッキなどの場合、熱せられた高温の空気が入ってきてしまいますので注意しましょう。その場合、木を植えたりプランターを配したりすることで緑陰をつくる対策や、オーニングやすだれを窓の外に配して少しでも涼しい空気を入れる対策が考えられます。
(荏田町の家)
最後に・・せっかく「風通しのよい家」を実現しても、屋根や外壁に降り注ぐ日射エネルギーが室内に伝わってしまっては、涼しく暮らすことはできません。屋根や外壁には十分な断熱材を入れることもお忘れなく・・。