採光の工夫による「明るく」「暖かい」家のつくりかた
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
省エネ意識が高まる中、「昼間でも明るく最小限の照明で過ごせる家」「冬でも暖かく、最小限の暖房で暮らせる家」をつくることはますます重要となってきています。これら「明るさ」「暖かさ」を得るために最大限利用できる資源・・それは自然光です。本コラムでは「古い日本家屋に学ぶ採光の大切さ」のエピソードから始まり「敷地状況に応じた南側からの採光手法」「北側でのトップライトによる採光」について、ご紹介します。
古い日本家屋に学ぶ採光の大切さ
以前、冬のある晴れた日に熱海を訪れた際、保存・公開されている古い日本家屋をいくつか見て廻りました。それら日本家屋ではいずれも南側に大きく開口部をとっており、そこから室内に燦々と陽射しが入っていました。
(起雲閣(きうんかく))
(旧・中山晋平邸)
その日は冬の寒い日でしたが、日射を十分に採り込んだ室内は暖房なしでも暖かく快適でした。現代の住宅に比べて気密性が低く暖房設備にもさほど頼ることができなかった昔の住宅ですから、冬暖かく過ごすため日射を採り入れることは非常に重要だったわけです。これら古い日本家屋を見て廻る中で私は、住まいに太陽の恵みを十分に活かすことの大切さを、改めて感じました。
現代の住宅は気密性も高く、エアコン等暖房設備も高性能になってきていますが、省エネに配慮することは地球環境と家計負担の双方の点でますます重要になってきています。したがって、このような昔からの家づくりの基本に立ち返り、しっかりと採光できる住宅を考えることはとても大切なことです。ただ、昔に比べて現代では、家の敷地が狭いうえに隣家がひしめくように建て込んでいる場合も多く、容易に採光できるケースばかりとは言えなくなってきています。しかし、どのような敷地でも、光が差し込む部分というのは必ずあるものです。敷地の特性をとらえた採光の手法を、以下ご説明していきたいと思います。
南からの光は優等生! 敷地状況に応じた採光手法
採光の目的は何でしょうか?
・・・住環境の面では「明るさ」「暖かさ」の2点が挙げられます。
では住宅にとって、どの方位から採光するのが良いでしょうか?
・・・「明るさ」の点では東西南北どの方位でも効果がありますが、「暖かさ」の点では直射光が必要ですから東西南の3方位が効果的です。しかし冬の直射光は「暖かさ」につながる有難い要素ですが、夏の直射光は「暑さ」につながる避けたい要素です。冬は直射光を採り入れ、夏は直射光を遮りたい・・・それが容易に実現できるのはズバリ、南側の開口部なのです。
太陽は朝、東から昇り、夕方、西へ沈みます。
朝の東側からの光や夕方の西側からの光は太陽高度が低いために、一年中横から入ってくる光となります。そのため、東側や西側の開口部からは直射光が一年中室内に入りやすく、冬は暖かくて良いですが、夏は暑くなってしまいます。
これに対して、昼間の南側からの光は季節によって太陽高度が大きく変わります。例えば東京(北緯35.5度付近)における南中時の太陽高度と南側開口部との関係を表わすと下図のようになります。
南側の開口部の上部に軒や庇などを取り付けるだけで、夏は直射光を遮り、冬は直射光を採り入れることができます。「夏は涼しく、冬は暖かく」を目指す室内環境にとって、南側からの光はじつに優等生なのです。
ただ、様々な敷地状況がある中で、どのようにすれば南側からの光を確実に採り入れることができるでしょうか。ここでは日中多くの時間を過ごすリビング・ダイニングへの採光という視点で、敷地状況別の採光手法を、冬至の南中時の太陽高度の図で見ていきましょう。
■1階にリビング・ダイニングを配置する場合
南側隣家との離隔距離が十分に確保できる場合、住宅を敷地内の北側に寄せるだけで、リビング・ダイニングへの採光は容易に実現できます。
(図中凡例)LD:リビング・ダイニング、N:北、S:南、一点鎖線:敷地境界線
南側隣家との離隔距離がやや小さい場合は、コートハウス(中庭型住居)にするなどしてリビング・ダイニング廻りの空間サイズを絞れば、リビング・ダイニングへの採光は容易となります。
■2階にリビング・ダイニングを配置する場合
南側隣家との離隔距離が小さい場合、2階にリビング・ダイニングを配置することが採光上は効果的です。
さらに南側隣家との離隔距離が小さい場合、総2階構成ではなく、1階の面積比率を大きくすることにより2階のリビング・ダイニングをセットバックさせると、採光が容易になります。
■3階にリビング・ダイニングを配置する場合
3階建ての隣家が迫る敷地状況の場合、計画住居も同様に3階建てとし、3階にリビング・ダイニングを配置することが採光上は効果的です。
さらに南側隣家との離隔距離が小さい場合、3階をセットバックさせる手法が有効です。
光が届きにくい北側ではトップライトによる採光を
家の奥行きが深い場合、南側からの光だけでは家の北側まで十分に明るさが行きとどかない場合があります。このような北側の部分では、トップライト(天窓)による採光手法が効果的です。このトップライト、同じ面積でも壁面に設ける開口部の3倍の採光効果があります。ただし、夏は日射が真上から降り注ぐので、トップライトの大きさは控えめに、そして北側への配置が無難です。私が以前設計した住宅でも、吹抜状のリビング・ダイニングの北側に小さなトップライトを設けました。トップライトからの光が壁を舐めるように降り注ぎ、室内の北側に明るさをもたらしています。
(朝霞の家)
このトップライトという手法、現代の住宅では頻繁に見られるものとなりましたが、古い日本家屋でも使われていました。下の写真は東京都文京区に保存・公開されている旧安田楠雄邸という、大正8(1919)年に建設された日本家屋のキッチン部分です。暗くなりがちな北側のキッチンにトップライトを設けることで、明るい空間となっています
(旧安田楠雄邸)
まとめ
太陽の光はあらゆる敷地に分け隔てなく降り注ぎます。都心部の密集地では周辺環境により日射が限定されますが、それでもゼロではありません。そしてこの日射、どれだけ利用してもタダ(無料)です。この日射という資源を大いに利用し、「明るく」「暖かい」家づくりを目指したいものです。
最後に・・せっかく日射を採り込んで「暖かい」家を実現しても、室内の熱が屋根や外壁からどんどん外へ逃げてしまっては、暖かく快適に暮らすことはできません。採り込んだ熱を無駄に逃がさないためには、断熱や気密をしっかり確保することも大切です。