開放感を保ちながら、プライバシーを守る家
監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)
明るい陽射しや心地よい風といった自然の恵みを採り入れ、室内にいながら外の景色や空間の拡がりを感じられるような、開放的な家。誰もが憧れるのではないでしょうか。
しかしながら、開放的な家を実現するために必要な家の「開口部(窓、戸、出入り口などの開放された部分のこと)」を通して、外から室内への視線も入ってきます。自然豊かなロケーションに建つ家ならば問題ないとしても、市街地や住宅地に建つ多くの場合は「開口部とプライバシーの両立」という課題が生じてきます。
本コラムでは「開口部とプライバシーを両立させるための3つの手法」から始め、「プライバシーと開放性を両立させる中庭プラン」についても事例を交えてご紹介します
開口部とプライバシーを両立させるための3つの手法
開口部とプライバシーを両立させるための手法は様々なものがありますが、概念としては主に3つに大別することができます。
1)開口部廻りで視線をカットする
これは最も一般的な手法です。
開口部の内側で視線をカットする手法としては「ブラインド」「カーテン」「障子」「簾戸」などがあります。
また、開口部の外側で視線をカットする手法として、「簾」「ルーバー」などもあります。
遮蔽(しゃへい)度合いにもよりますが、これらの手法を用いることにより光や風をある程度採り入れながら、外から室内への視線もある程度カットすることができます。ただし、「室内に居ながら外の景色や空間の拡がりを感じる」という点では限度があります。
2)開口部位置の工夫で視線をカットする
高窓のように外から室内へ視線が入ってきても気にならない位置に開口部を設けたり、トップライトのように外から視線が入ってこない位置に開口部を設けたりする手法です。
特に市街地の建て込んだ敷地ではプライバシーの確保が大きな課題となりますが、2階建て・3階建ての隣家がせまっていたとしても、トップライトであれば外から室内への視線を気にすることなく光や風(雨天時以外)を採りこむことができ有効です。ただしこの手法も「室内に居ながら外の景色や空間の拡がりを感じる」という点では限度があります。
3)外部空間で視線をカットする
「光や風といった自然の恵みを室内に採り入れる」のみならず、「室内に居ながら外の景色や空間の拡がりを感じる」ことまでを実現し、プライバシーと両立させる・・・それを可能にする手法です。庭やバルコニーといったプライベートな外部空間の外側に建物ヴォリュームや目隠し壁・ルーバー・植栽などを配置し、視線をカットする手法です。リビング・ダイニングが1階の場合は庭の外側で、リビング・ダイニングが2階の場合はバルコニーの外側で視線をカットすると効果的です。
プライバシーと開放性を両立させる中庭プラン
上記で3つ目にご説明した「外部空間で視線をカットする」手法の事例として、私が設計を手がけた住宅から2例ご紹介します。建物ヴォリュームや目隠し壁・ルーバーなどで庭を囲いこむ、いわば「中庭プラン」といえる形状の事例です。
1)L字型平面の事例(荏田町の家)
私の自宅兼アトリエです。L字型平面の建物と、L字型に配した目隠し壁及びルーバーとにより、囲いこまれた中庭を形成しています
中庭の西隣はすぐ隣家がせまっていますので、敷地内に白い壁(目隠し壁)を設け、隣家からの視線をカットしています。道路から中庭は1.2m高い位置にあり、その間には木ルーバーを設けてありますので、道路からの視線もほとんど入ってきません。
この中庭は道路や隣家の視線から守られた、プライベートな外部スペースとなっているため、日常の生活の様々なシーンで気軽に中庭での時間を楽しむことができます。また、リビング・ダイニング等の室内空間はこの中庭に対して大きく開口部を確保しており、昼夜を通して外からの視線を気にせずこの開口部をオープンにして過ごすことができます。
2)コの字型平面の事例(朝霞の家)
夫婦+子供2人のための住まいです。
敷地の東側・南側は敷地境界まで隣家の壁がせまり、視線や圧迫感を感じる状況でした。反面、西側は道路ごしに空地が開けていました。
そこで、建物をコの字型平面として中庭を設け、西側に開かれた構成としました。中庭と道路の間には板塀を設け、道路から中庭への視線をカットしています。
近隣の住宅が密集する環境において、この中庭は道路や隣家からの視線を気にすることなくくつろげる、家族のオアシスとなっています。そして各室はこの中庭に対して開放的な構成となっています。
以上、プライバシーと開放性を両立させる中庭プランについて2事例ご紹介しました。中庭プランでは、室内のみならず、室外まで含めたプライベートな空間を確保することができる特長があります。ただし、あまり閉鎖的につくりすぎると中庭や室内に光や風が入りにくくなり、街並みに対しても閉鎖的な表情になりかねません。適度に「開き」、適度に「閉じる」・・・その程良いバランスの取り方が設計の勘所となります。
まとめ
プライバシーに対する要求度合いは、住み手によってかなりの個人差があります。「少々、道路から室内が見えるくらいでも構わないので、室内に居ながら街の気配や賑わいを感じられるオープンな家がいい」というタイプの方から、「わずかでも道路や隣家からの視線が気になるようであれば、窓を閉めて過ごしてしまう」というタイプの方まで、じつに様々です。また家族メンバーの中でも個人差があり、一般的に女性のほうがよりプライバシーを気にする傾向があるように思います。
敷地状況と、住み手の感性とを鑑みながら、開口部とプライバシーを両立させるあり方を考える・・・これは住宅設計における最も高度な次元の要素のひとつだと思いますが、この課題にしっかりと向き合うことで、本当に心地よく、住みやすい、安らぎの感じられる家をつくることができるのではないでしょうか。