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意外と奥が深い!
暮らしの印象を豊かにする玄関づくりの秘訣とは?くり

監修:新井 崇文(新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士)

家づくりでは、玄関のあり方を考えることも重要です。「玄関といっても・・・ただ土間と靴棚があればいいのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、いいえ、玄関を侮ってはいけません。玄関には意外と多くの要素が集まっており、住み心地に大きく影響する部位なのです。本コラムでは「玄関に必要な機能」について詳細解説し、さらに「玄関のあり方を考え直す」、「『オープン玄関』的な住まいの事例」についてもご紹介します。

玄関に必要な機能とは?

玄関とは何でしょうか? 家の入口であり出口であり・・・。 そう、一言でいえば、「人とモノが出入りする場所」ということになります。

1)玄関は人が出入りする場所

家から人が出入りする際、まず玄関で行われるのが「靴を履く・脱ぐ」という動作です。土足で家に入る欧米スタイルの家や、リビング・ダイニングまで土間が展開するような家は別として、日本の多くの家では玄関で「靴を履く・脱ぐ」という動作が行われます。脱いだ靴をどこにしまうか・・・玄関の壁面に靴棚をしつらえるケースが多いですが、保有する靴の量が多い場合は「シュークローク」として収納の小部屋を設ける方法もあります。また、「靴を履く」という動作について・・・土間と室内床の段差が30センチ程度ある場合はそこに腰掛けて靴を履くことができますが、最近はバリアフリーへの配慮から土間と室内床の段差を小さくしてフラットに近づけていく傾向にあります。その場合、土間部分に椅子をひとつ置けるスペースを確保しておくか、あるいはベンチを造りつければ、靴を履く際に腰掛けることができて便利です。 家から人が出入りする際に玄関で行われるその他の行為としては「コートを着る・脱ぐ」という動作があります。ここで重要なのはコートの収納場所。市販のコート掛けを玄関の片隅に置くだけでは見栄えがよくありませんし、コートがホコリを被ってしまいます。それに家族全員のコートや上着を数種類ずつ置くとなれば、それなりの量になってきます。ここは是非、ハンガーパイプを配した造りつけのコート掛け収納を設けたいところです。玄関の壁面に扉付きで設置するほか、玄関脇に別室としてクロークを設ける方法もあります。その他、帽子・傘・雨具・電動自転車のバッテリー(コンセント要)などの収納場所も玄関廻りに確保したいところです。

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(荏田町の家)

「出かける身支度をすませたら、姿見で確認を・・」という習慣の方もいらっしゃることでしょう。姿見の鏡を玄関に設置する場合は、室内床部分でなく土間部分に設置したほうが、靴を履いた後の全身の姿を確認することができ、より便利です。

2)玄関はモノが出入りする場所

昔ながらのお家であれば「玄関は客人用なので常に整然と保ち、住人の日常の出入りは勝手口から」という習慣があるかもしれませんが、今は生活スタイルも変わってきており、家族の日常の出入りも全て玄関一か所に集約する家が多いように思います。そうすると、玄関は「人」と共に多くの「モノ」が出入りする場所になります。お店で買ってきたモノや宅配便で届けられたモノ・・・それらは家の中のしかるべき場所に居場所を与えられるまでの間、仮置き場にしばし留め置かれることがあります。玄関廻りに適切な収納場所がなければ、玄関自体がその仮置き場に・・。袋や段ボール等が積み重なっていき玄関を占拠していくということにもなりかねません。 また玄関には、「室内床を汚したくない」という理由で、土間に留め置かれるモノたちもあります。ベビーカー、スーツケース、ゴルフバッグ、泥つき野菜など・・・。 このように、玄関廻りに留め置かれるモノたちは意外と多いものです。そしてこれらを全て玄関に置いて露出させてしまうと、モノだらけでごちゃごちゃした空間になってしまい、とても「これから気持ち良く出かける」気分で通れる玄関にはなりません。そこで玄関廻りには、住まい手の生活スタイルに応じた適切な収納スペースを設けることが必要になります。収納を玄関壁面に設える場合は扉付きとして中を隠せるようにします。玄関脇に別室で収納スペースが確保できれば、より使い勝手は良いでしょう。

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(朝霞の家)

3)玄関に+αの機能・空間で魅力づけを

玄関は整理整頓してスッキリと、清潔に・・・これが気持ちのよい玄関にするは大切なことです。さらに、床面積に余裕があれば玄関に少しスペースを付加し、+αの魅力づけをしてはいかがでしょうか。例えば、土間部分を広げてちょっとしたギャラリーやお店もできる設えにしたり、室内床部分を広げてソファを置きちょっとした来客をもてなすための小リビング的な設えにしたり・・・。また空間デザインとしては、玄関に入ると坪庭が見えて「ホッ」と一息つけるとか、吹抜けでほの暗い玄関ホールにトップライトから柔らかな光が降り注ぐなど、住み手や客人が出入りする度に心が洗われるような魅力ある空間づくりができればさらに素敵ですね。

玄関のあり方を考え直す

玄関というものを考える際、私が今でもよく思い出すことがあります。それは私が小学校低学年の頃の思い出です。その頃、我が家は郊外の庭付き一戸建てに住んでいました。私はその頃(今でもそうだと言われそうですが・・)終始のんびりした性格で、学校が終わると、長い道のりをのんびり、のんびり歩いて帰ってきたものです。それに比べて毎日一緒に遊ぶ親友のK君は俊敏な性格で、学校近くの自宅にさっとランドセルを置くと、自転車ですばやく私の家にやってきます。結果、私が帰宅する前にK君が我が家に到着するということもしばしばありました。そんな時、K君はインターホンを押して入口で待つのではなく、我が家の庭に廻り込み、リビング濡れ縁のガラス窓から「いるかな・・?」と中をのぞいていたものです。すると同居していた祖母がそれに気付き、「おや、ずいぶん早くやってきたね・・」とK君をリビングに上げ、お菓子などを出して待たせてくれていたのでした。 K君にとっては、インターホンを押していわゆる玄関から入るよりも、庭伝いにリビング濡れ縁からアプローチするほうが、気兼ねなく入りやすかったのでしょう。子供だからそれで良かったとも言えますが、考えてみれば昔ながらの日本家屋には縁側があり、正式な客人は玄関から出入りするとしても、身内や勝手知った近所付き合いなどは、庭伝いにやってきて縁側から出入りする、というケースが多かったのではないでしょうか。そのほうが、自分で様子を伺いながら円滑に出入りできたのではないかと思います。 そして現代の家づくりにおいて玄関を考える際も、必ずしも「玄関ホール」として独立した室になっている玄関のあり方だけではなく、庭伝いにリビングやダイニングに直接入る(リビングやダイニング自体が玄関を兼ね、その片隅に靴棚など必要な収納が設置されている)という「オープン玄関」的な住まいも暮らしの楽しさがあり、一つの選択肢と考えてよいのではないかと思います。もちろん、寒い地域の住まいや北側玄関の家の場合は、風除室として玄関ホールを形成し、出入りの際に冷気が流入するのを防ぐ必要はあるかと思いますが、今や建物や開口部の断熱性能も向上していることもありますので、ケースバイケースである程度柔軟に考えてもよいと思います。

「オープン玄関」的な住まいの事例

そのような考えで、道路から庭伝いに玄関へ入り、玄関からリビング・ダイニングまでが一体空間となっている「オープン玄関」的な住まいの事例を2つご紹介します。

1)荏田町の家

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道路からはまず駐車スペース脇のアプローチを進み、階段を上がり、木ルーバー内部のゲートを通って中庭へ入ります。

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中庭では木デッキに上がり、突きあたりを入るとそこが玄関です。

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玄関では、土間(タイル)と室内床(木フローリング)の床高さはほぼフラットとなっており、靴の着脱時に座るためのベンチが造りつけてあります。この家の玄関廻り収納は「家具収納」タイプとなっており、2枚引戸の内部にコート掛けと靴棚、傘掛けが納まっています。

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玄関廻りにはワークスペースが併設されています。玄関とワークスペース(さらにキッチン・ダイニング・リビングまで)とは連続した空間となっていて、玄関廻りの雰囲気にゆとりと広がりをもたらしています。ワークスペースは玄関からは床が2段分高くなっており、玄関で立っている人とワークスペースで座っている人の目線高さがそろう設えとなっています。

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玄関からは中庭を囲むようにキッチンからリビング・ダイニングまでが一体的な空間となっています。

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2)朝霞の家

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道路からはまず石畳調のアプローチを進み、木ルーバー内部の中庭へ入ります。

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中庭ではコンクリート床のアプローチを進んでいき、右手のガラス戸を入るとそこが玄関です。

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この家の玄関廻り収納は「室収納」タイプとなっており、玄関に入って右手へ進むと土間のままクロークへと続きます。クロークでは右手にコート掛け、左手に靴棚と傘掛けが造りつけられています。このクロークは玄関廻りにおける様々なモノの仮置き場となります。クロークは入口扉を閉めれば玄関から見えないスペースとなりますので、来客時にも見栄えを気にしなくて済むという使い勝手の良さがあります。

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玄関にはマッサージコーナーが併設されています。来客に施術する際には天井に取り付けられているロールスクリーンを下ろして空間を区分することもできます。また日常は家族の小リビング的なスペースとして、玄関廻りにゆとりある雰囲気をもたらしています。

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そして中庭を中心に玄関からリビング・ダイニングまでが一体的に連続した空間となっています。

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以上2事例に共通するのは、「リビング・ダイニングと連続した玄関から庭経由で外へ出て行ける構成」という点です。したがって朝、庭を眺めて「今日はいい天気だ。気持ちいいな。」と感じたら、そのまま「気持ちいいな。」と感じた庭の方向へ出ていけるという心地良さがあります。

まとめ

玄関には「人とモノが出入りする場所」としての様々な機能が集約されています。さらに、日常頻繁に通る玄関廻りの空間デザインは暮らしの印象に大きな影響を及ぼします。皆さんも、自分のライフスタイルに適した玄関のあり方を、一度柔軟に考えてみてはいかがでしょうか。

新井 崇文

新井アトリエ一級建築士事務所代表・一級建築士

新井 崇文(あらい たかふみ)

自然素材に包まれた、住み心地の良いデザイン住宅づくりを目指す傍ら、共働き家庭で家事と子育てもこなすイクメン設計士。「生活者の視点に立った住宅設計」の専門家。
新井アトリエ一級建築士事務所 ホームページ ブログ
平成26年8月に 「荏田町の家」がTV番組「渡辺篤史の建もの探訪」にて放映

 

 

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